ボルボと共に目にする「ポールスター」とは? (2/2ページ)

フラッシュ・エンジニアリングというファクトリーが起点

 ポールスターの歴史がスタートしたのは、1996年のこと。ジャン・”フラッシュ”・ニールソンというレーシング・ドライバーが興したフラッシュ・エンジニアリングというチーム/レーシング・ファクトリーが起点だったといえるだろう。”フラッシュ”ニールソンはこの年からボルボと契約し、STCC(スウェーデン・ツーリングカー選手権)をボルボ850で戦い、この年と翌1997年のマニファクチャラーズ・チャンピオンをボルボにもたらした。

1998年からマシンをS40にスイッチし、その年はSTCCシリーズ2位、2000年はシリーズ3位、2001年はシリーズ2位、2002年もシリーズ2位と、常に上位争いを繰り広げる活躍を見せた。

 そして2004年の後半、”フラッシュ”ニールソンはフラッシュ・エンジニアリングの事業の一部を売却し、ボルボでのモータースポーツ活動の部分をチーフ・メカニックだったクリスチャン・ダールが受け継ぐことになる。

 翌2005年からは名称を “ポールスター”へと変更してスタートすることになり、2003年からのS60でのSTCCへのチャレンジを継続した。2006年にはエンジン開発施設を設けるとともに、レースカー開発部門を独立。さらにはボルボが行う自動車整備に関する教育活動の一部を担うなど、ますますボルボとの関係性を深めていく。

2007年にはレース用のバイオエタノール・エンジンとディーゼル・エンジンを開発。その一方でSTCC用にC30のレーシングカーを開発、2009年にはSTCCのチャンピオンを奪取。2010年にはボルボと共同開発して世界中で高く評価されながらも市販はなされなかった初のロードカー、C30ポールスター・コンセプトを発表。同年のスカンジナビア・ツーリングカー選手権をC30で制覇。2011年はボルボのT6モデル用にパフォーマンス・プログラムを開発。2012年はマシンをS60に変更し、スカンジナビア選手権から分離したTTAシリーズでドライバーズとマニファクチャラーズの2冠を制覇。

 そして同年、508hpのロードカーのコンセプトカー、S60ポールスター・コンセプトを発表。それが翌2013年のポールスターの名前を冠した初のプロダクション・モデル、S60ポールスターへと繋がっていく。もちろんその年もレースでは大活躍し、スカンジナビア選手権ではテッド・ビョーク選手が全18レース中8勝をマークする圧倒的な強さでシリーズを制覇。翌2014年と2015年もスカンジナビア選手権を完全掌握した。

 そして2015年、ポールスターは大きな転機を迎えることになる。代表のクリスチャン・ダールはレーシングカーの開発とレース参戦のオペレーションを担う部門を除いて、ポールスターをボルボ・カーズへ譲渡。レース部門を新たにシアン・レーシングとして独立させ、ボルボ傘下のパフォーマンス部門として再スタートを切ったポールスターと密接な関係を保ちながら活動を続けることになった。

 そこから先はご存じのとおりだ。シアン・レーシングはボルボの公式的なパートナーとしてモータースポーツ活動を担い、世界ツーリングカー選手権にS60で参戦して2017年に制覇。

 ポールスターはボルボのラインアップの中のハイパフォーマンス・モデルの開発やオプションとしてのハイパフォーマンス・キットなどの開発を続け、先述のとおり、これからはボルボ・グループのなかの独立した高性能電気自動車ブランドとして活動していくことになる。

 ボルボはポールスター・ブランドの独立発表の直後、電気自動車の分野に大きな力を入れていくことも発表している。2019年から2021年にかけて5台の電気自動車を発売していくこと、そのうちの3台はボルボ・ブランド、2台はポールスター・ブランドのモデルとなることも発表している。

 そのポールスター・ブランドの最初のモデルとして”ポールスター1”が2017年10月にアナウンスされたことは、まだ僕達の記憶に新しい。近年の”美しい”ボルボの流れをさらに推し進めたかのようなスタイリッシュなクーペ・ボディに、600馬力と1000N・mを発揮するハイブリッド・システムを搭載した優雅なグランツーリスモ。それは新たなスタートを切ったポールスターの計画が順調に進んでいることを意味している。

 内燃機関のエンジンを積んだボルボの現行ラインアップには魅力的なモデルが多く、販売も順調だという。2010年に親会社となった中国のジーリー・ホールディング・グループの潤沢な資金を巧みに活かしてクルマの開発を進めてきたことが、好結果に結びついてきているのだ。

 ポールスターの電気自動車ブランドとしての独立は、電気自動車への関心が高い中国市場に向けた施策と見ることもできるが、同時に電気自動車への関心が高まっているのは世界的な流れでもある、という事実がある。そして電気自動車が単に道具としての枠を超えてクルマ好きにアピールできる部分がなければならないということにも、世界中の自動車メーカーはとっくに気づいている。そのためにもモータースポーツの香りは不可欠といえるだろう。シアン・レーシングの存在は、極めて心強い。

 ボルボ、ポールスター、そしてシアン・レーシング。その連係プレイがこれからどんな発展の仕方を見せてくれるのか、想像すれば想像するほど楽しみな気分になってくるじゃないか。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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