長距離客よりもワンメーター客が喜ばれる中国の驚きタクシー事情

運転手が客を選べる完全な売り手市場

 筆者にとって北京での頼れる移動手段はタクシー……、と言いたいところだが、北京市内のタクシーは、日本のタクシー乗務員からは“ワンメーター”などと呼ばれて嫌われる、距離の短い営業をこまめに行って稼ぎたいらしく、手を挙げてタクシーを停めた場所から距離の長めのところまで行きたいとすると、断られることが多い。

 単純に「外国人は面倒くさい」とか、「いまはそんな気分ではない」という、乗務員個々の“気まぐれ”から断るケースも目立つ(過去にはいったん乗せてくれたのに、「やっぱりやめた」として降ろされたこともある)。が、これには北京市内の激しい交通渋滞も影響しているようだ。

 ナンバープレートの新規発給規制があるとはいえ、それなりに自動車が増え続けている北京市内の交通渋滞は、聞いたところ年々激しくなるばかり。しかも、北京以外でも同じ傾向なのだが、1度マイカーを手にすると、通勤はもちろん、買い物など日常生活での移動はほぼクルマになると中国ではいわれているほどマイカー依存度が高くなる。

 いつでも混雑している路線バスや地下鉄での移動は筆者ですらウンザリすることも多いので、そんな気持ちはわからなくないのだが、それだけ街の通りにはクルマが溢れているのだから、交通渋滞も激しいはず。

 今回は午後10時近くに北京空港に降りたち、空港から宿泊先までタクシーに乗ったのだが、そんな時間でさえ環状道路は渋滞寸前の交通量でスピードダウンしていた。

 北京モーターショーの会場は北京市郊外にあり、ほぼ北京空港に近い。2年前の前回開催時に朝タクシーで会場に向かおうとしたら、「ふざけるな」とばかりに断られ続け(朝のラッシュ渋滞に加えて、会場近くがハンパない大渋滞となるから時間がまったく読めない)、結局混み合う地下鉄で会場に向かったので、今回は最初からタクシーはアテにせず地下鉄で向かった。

 中国語はほとんどわからないのだが、ある時シブシブ距離の離れた場所まで送ってもらうときに、「渋滞がひどいから、近い距離での営業で数をこなすほうが合理的だ」というようなことを乗務員が語ってくれた。長距離のお客を乗せれば確かに料金はたくさんもらえるが、渋滞で移動時間はかなりかかる。そしていざ元の場所に戻ろうとすると激しい交通渋滞が待っている。時間がかかりすぎて結局全体の売り上げが減ってしまうというのが、その乗務員の言い分のようだ。

 乗務員それぞれが得意とするエリアがあり、そこをベースに営業するのは万国共通の様子。遠くへとばされると、その場所からさらに飛ばされる危険性も高いので、交通渋滞の激しい北京市内では多くの乗務員が自分のテリトリーから離れたがらないらしいのだ。

 そのため手を挙げてタクシーが停まっても、すぐに乗り込まないのが流儀。助手席の窓越しから言葉が通じないので、目的地がホテルなら住所の書かれたカードや、別の行き先ならば、漢字(簡体字で書くと結構喜ばれる)で手書きの行き先を見せて、乗務員が納得すれば、そこで初めてタクシーに乗り込むことができるのだ。乗務員が行き先の“品定め”をするという、完全な売り手市場なのは北京市内に限ったことではない。

 中国でも中国版“ウーバー”が大活躍している。タクシー乗務員がタクシー車両で行っていることもあるが、その影響は大きいようだ。ほぼタクシーメーターをオンにしてくれる上海や北京よりも、柄の悪い広州市では、モーターショー取材が終わり、会場近くからタクシーで帰ろうとしても、「そんな遠く(川を渡るので橋が大渋滞している)に行くならアプリで(中国版ウーバー)呼べ!」と怒鳴られることもしばしば。ようやく乗せてくれてもメーターオンなどするはずもなく、「100元よこせ(かなり高額だけど一昨年100元だったのが、去年は80元に値下げされていた)」と言われることはもはや当たり前。

 ちなみに中国版ウーバーの浸透で、街から白タクのオジさんがほぼいなくなってしまった(みんな中国版ウーバーに鞍替えしてしまったようだ)。タクシーに乗れない時の非常手段として利用していただけに非常に残念である。

 話を北京に戻すと、乗務員が長距離移動を喜ぶのは、早朝の北京空港まで行くときぐらいしかない。それでも午前6時前にはすでに空港近くの高速道路やターミナル近くは大渋滞になっている。そのため空港のボディチェックのコーナーでは、「飛行機に間に合わないから先にやらせてくれ」と言ってくる、渋滞でギリギリ空港に滑り込んだ人民がかなりいた。

 筆者は最近スマホの地図などで、あらかじめ目的地の位置を確認し、これぐらいの距離ならタクシーは行ってくれるな、などとアタリをつけてからタクシーを探すようにしている。渋滞による時間的ロスや、目的地までの距離での判断など、北京市内でタクシーに乗るのは結構面倒くさいのは確かである。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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渡 哲也(団長)、石原裕次郎(課長) ※故人となりますがいまも大ファンです(西部警察の聖地巡りもひとりで楽しんでおります)

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