日産セレナのミニバン販売台数1位の影にある販売現場の笑えない「裏事情」

ディーラーの車庫に並ぶ数十台の「黒いセレナ」

 過去には“カローラvsサニー”や、“ブルーバードvsコロナ”など、各メーカーがガチでコンセプトの被るライバル車を設定し、激しい販売競争を展開していた。しかし、いまやそんな“ガチバトル”が展開されているのは、“軽自動車”、“コンパクトハッチバック”そして“5ナンバーボックス型ミニバン”ぐらいといえるだろう。

 トヨタ・ヴォクシー/ノア/エスクァイア3兄弟、日産セレナ、ホンダ・ステップワゴンなどが属する5ナンバーボックス型ミニバンでは、ヴォクシーが“2017年度ミニバン販売ナンバー1”をアピールして販促活動を展開している。

 自販連(日本自動車販売協会連合会)統計によると、2017事業年度(2017年4月〜2018年3月)のヴォクシーの販売台数は9万1185台で、確かにミニバンでの販売ナンバー1となっている。2位はセレナで8万1005台となっており、その差は1万180台となっている。2017暦年販売台数でもヴォクシーは1位となっており、2位もセレナだったのだが、その差はわずか4320台にまで迫っており、この2車はいまどき珍しいぐらいの、“ガチバトル”を展開している。

 事業年度統計での2車の販売台数差の月販平均は848台、暦年統計ではその差は360台となっているので、まさに僅差でヴォクシーはトップを獲得しているともいえよう。

 ただ、ご存じのとおり、日産自動車は2017年秋に完成検査不正問題を起こし、一時的な生産停止などをしている。生産停止による車両供給が滞ったり、不正を受けてのイメージダウンで買い控えなども発生していたので、この問題がなければセレナが2017暦年と事業年度の両方の統計でヴォクシーを押さえてナンバー1になっていた可能性は高い。トヨタに比べ、とくにカテゴリー別の販売台数ナンバー1を今までも販促ツールとして積極活用していた日産にとっては悔しい結果となったにちがいない。

 そのようなフラストレーションが爆発したかどうかは別として、2018年に入ってからのセレナの猛攻には目を見張るものがあり、1月から5月までの月別販売台数ではヴォクシーを抑えてミニバンではナンバー1を続けている。2018年1月から5月までの累計販売台数はセレナが4万6851台で、ヴォクシーは4万375台となり、その差は6476台となっているので、6月の販売台数でヴォクシーがセレナを追い越すのはほぼ不可能となるの。つまり2018暦年締めでの上半期ミニバン販売ナンバー1はセレナでほぼ決まりといえるだろう。

 ただし、このような状況であっても、セレナが単純に良く売れている結果とも言い切れない部分もある。筆者はある地区の某日産ディーラーを定点観測しているのだが、ここ数カ月は毎月中旬ぐらいになるとディーラーの車庫に、“黒のセレナが十数台”といったような違和感のある新車の在庫が置かれている。そしてそれは月末までに車庫からいなくなっているのである。

 確証はないものの、ここ数カ月はボディカラーが黒から白に代わるぐらいで、同じようなことが起こっている。このような動きを見ればディーラーなどの名義で自社登録を行い、販売実績の上積みを行っていると考えるのが自然であるといえよう。

 未登録または、ディーラー名義などで自社登録しただけの未使用状態で流通している“登録済み未使用中古車”や、ディーラーで短期間試乗車として使われたような、“ちょっと使った中古車”など、形態はいくつかあるが、日産ディーラーとは関係のない中古車展示場には高年式の現行セレナが並んでいるのが目立つ。1店舗十数台とはいえ、これがいくつもの店舗でも行われていれば、まさに“塵も積もれば……”なのである。

 ヴォクシーも似たようなことをまったく行っていないとは言わないが、セレナほど目立っていないのは確か。つまり、今年に入ってからのミニバン販売ナンバー1の維持について、日産は“ヴォクシー憎し”と思っているかは別としても、“無理”をしているともいえるのである。

 今年3月にe-POWERのセレナが発売されている。すでにノートが2016年のマイナーチェンジのタイミングでe-POWERが設定され、マイナーチェンジ前と比べ飛躍的に販売台数を伸ばすこととなった。

 セレナもそのようなノートの流れを期待して追加設定したようだが、セレナでいえば現行モデルデビュー以来ラインアップしている、“Sハイブリッド”という簡易ハイブリッドタイプの2リッターガソリンエンジン車とe-POWERの価格差は、50万円ほどe-POWERの価格がアップしている。その点も踏まえて販売現場ではe-POWERをフックにして、Sハイブリッド仕様の販促を強化している面も否めない。

 燃費性能に優れるe-POWERに魅力を感じて購入候補として検討しているお客のなかには、価格差を埋める、つまり元を取ろうと考えた際に二の足を踏むひとも多い。そんな場合にはセールストークを駆使して「e-POWERでなくてもいいか」とお客が感じるようにして、2リッターエンジン搭載車の契約へ結び付けようとするのは、新車販売の“常道”でもある。

 ただ、セレナがこのままのペースで、2018事業年度上半期や、2018暦年締め、そして2018事業年度締めなどで、ミニバン販売ナンバー1を死守しても、トヨタには次の一手があるのだ。確かにヴォクシーとセレナでのバトルでは勝てたとしても、“ヴォクシー3兄弟”でカウントすると、トヨタは圧倒的な販売台数を誇るのである。

 2017事業年度締めでの、ヴォクシー/ノア/エクスァイアの合計販売台数は19万2682台となっている。車名別ではなく、メーカーごとの“5ナンバーボックス型ミニバン”というカテゴリー別の販売台数では、セレナだけとなる日産では到底歯が立たないのである。

 統計台数は人気のバロメーターであることには変わりないが、数字を見ると、最近はセレナに限った話ではなく、程度の差こそあれ、統計台数がいろいろと“脚色(改ざんではない)”されているのではないかと強く感じるし、実際そのような動きがあるような話も聞く。統計数字はそのまま鵜呑みにするのではなく、その背景にどんな動きがあるのか“数字の裏を読む”と、統計数字がさらに生きてくることになるし、興味深いものになっていくのである。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

-

愛車
2019年式トヨタ・カローラ セダン S
趣味
乗りバス(路線バスに乗って小旅行すること)
好きな有名人
渡 哲也(団長)、石原裕次郎(課長) ※故人となりますがいまも大ファンです(西部警察の聖地巡りもひとりで楽しんでおります)

新着情報