お客も困るが運転手も困る! 「ゆすり」のトラブルにも繋がるタクシーの忘れ物事情

忘れ物を利用して「悪さ」を企んでいるひとも

 タクシー営業をしていて厄介なのが乗客の忘れものである。東京都内でタクシーに乗っていて目的地につき、料金を支払うとほぼ必ず領収書を渡されるはずである。この領収書には乗車したタクシーの所属会社と忘れ物などがあった際の連絡先、そして車両番号などが記載されているので、仮に「あっタクシーに忘れ物をしてしまった」となったときでも、その領収書に書かれた電話番号へ連絡し、車両番号を伝えれば、即座に運転士へ確認の連絡がいき、営業所に忘れ物が届けられ、一定期間保管されるので取りに行けばよいことになる。

 これが領収書を受け取らなかったり、運転士が渡さなかったりしたら、「どこのタクシー会社だったかなあ」ということになる。

 最近は東京都内でも、昔はタクシー会社ごとや、無線グループごとなどで、それぞれカラフルなボディカラーの車両が走っていたが、最近はどこのタクシー会社でも黒塗りのいわゆる“黒タク”だらけなので、ボディカラーでタクシー会社を見分けることはかなり困難。

 運よく乗っていたタクシーの所属会社を覚えていたとして、その会社の代表電話番号などを調べて連絡したとしても、東京の大手や準大手のタクシー会社ならば都内に複数の車庫(営業所)があるので、どの営業所の車両なのかから探すことになる。こうなるとその場で忘れ物をした車両を特定するのはかなり困難なので、その日営業していたタクシーが車庫に戻ってきたタイミングで各営業所に該当する忘れ物が運転士から届けがあったかどうかなども含めてタクシー会社からの連絡を待つこととなる。

 とにかく、忘れ物はしないにこしたことはないが、念のために領収書を必ずもらう“クセ”はつけておこう。

 忘れ物で多いのは圧倒的に携帯電話となる。慌てて持ち主が電話をかけてくることもあるが、他人の携帯電話にホイホイ出ることはできない。運転士が業務終了時に事務所の運行管理者に忘れ物として携帯電話を届けることになるので、領収書に書かれた連絡先へ電話をして問い合わせをすることになる。

 なおタクシー車内での忘れものは持ち主からの問い合わせに備えて、一定期間タクシー会社の車庫(営業所)で保管されるが、その期間を過ぎると警察署へ拾得物として届けることになる。

 携帯電話や傘などの忘れ物は営業所でまずはしっかり管理して保管されることになる。

 ただし、筆者が知っている限りのタクシー業界の決まりごととして、“生もの”の忘れ物については、保管しているうちに“アシがつく(腐ってしまう)”ので、すぐに処分してしまうそうである。

 しかし……タクシー車内に、野菜などの買い物をした品物を入れたスーパーのレジ袋が忘れ物として置いてあったことがあるという。営業所で中身を確認すると、玉ねぎ、じゃがいも、ニンジン、そしてカレールーが入っていたそうだ。とりあえず1日ほど保管していたが忘れ物の問い合わせもなかったので、せっかく材料がそろっているので、そのまま捨てるのももったいないということで、お肉を買ってきて営業所でカレーを作って食べたという話を聞いたことがある。

 また“高価そうな(あくまで高そうなものです)”壺などの陶器をわざとタクシー車内に忘れ、すぐに問い合わせをして取りに行くと、「割れているから弁償しろ(もともと割れていた)」などと言ってきて金をゆすり取ろうとしてくることも比較的よくあること。

 目的地についてタクシーから降りる時に、運転手が「忘れ物はございませんね」と、わざわざ後席を見ながら声をかけてくるのは、もちろん乗客へのサービスの一貫であるのだが、忘れ物があるとその問い合わせなどへの対応(営業所から連絡があった時点で車内を探したりする)で運転士も時間を取られてしまうことや、意図的に割れた壺などを忘れて“悪さ”を企んでいるひとの行為を未然に防ぐということも兼ねているのである。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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