そこまで速度の出ないクルマに210km/hのタイヤを装着! なぜ純正で「オーバースペック」のタイヤを履くのか?

高性能化するほど量産効果が低くなり価格も高騰していく

 クルマ好きならば、タイヤのサイドウォールに表記されている数字の意味を知っている方も多いはずだ。タイヤの種類によって表記方法は違うが、一般的なラジアルタイヤでは次のような要素が示されている。

・185や235といった、タイヤの幅(mm)。

・45や55といった、タイヤの扁平率。これはタイヤの断面の幅と断面の高さの比率を指す。

・17や18といったリムの径。

・100や110とった、タイヤ1本にかかる最大負荷能力を記号。100は800kgを指す。

・そして、S、H、Vというアルファベットは、速度記号。英語ではスピードレンジともいい、このタイヤで走行可能な最高速度を示す。詳しくは、L(120km/h)、N(140km/h)、Q(160km/h)、S(180km/h)、T(190km/h)、H(210km/h)、V(240km/h)、W(270km/h)、Y(300km/h)となる。

 端的に、タイヤ幅が広がり、扁平率の数字が小さくなり、最高速度が上がるにつれ、タイヤに求められる性能が高くなり、それに伴いタイヤ構造や使用されるゴムなどの種類も変わる。

 一般的にはある一定以上の高性能化すると、使用に適したクルマのモデルが減り、製造工程の一部で手作業も加わるなど、量産効果が低くなり、さらに価格が上がることになる。

 筆者はこれまで、世界各国でタイヤ製造の現場を取材、またはタイヤメーカーとの情報交換のために視察してきた。さまざまなタイヤの研究開発の現場にも立ち会ってきた。そのうえで、タイヤメーカーにとってタイヤの製造工程は例え大衆車向けの商品であっても企業機密が多いものだと痛感している。

 また、近年はタイヤメーカーが新型車開発のかなり早い段階から、自動車メーカーとの協議を始めるようになったという印象がある。そのため、開発中の車両のポテンシャルとしての最高速度や、コーナーリングでのタイヤに対する負荷の変化についても、机上でのデータ分析と実走行データ収集の双方から、タイヤの設計に役立たせることができる。

 さらに、自動車メーカーとタイヤメーカー双方にとって、コストに対する最適化も重要だ。当然ことだが、より多くのモデルに対応するためのタイヤは、量産効果によってコストを抑制できる。そのうえで、走行性能に対して、タイヤ性能の余裕が少し多めという、量産効果が高いタイヤをメーカーが選び、実走行での結果が良い、というケースも考えられる。

 ただし、近年は大衆モデルでも、いわゆるエコ性能を重視する傾向があり、最高速度を上げることとは別の意味で、タイヤメーカーとして開発コストがかかる場合がある。

 総じて、自動車メーカーはモデルごと、さらにモデルグレード毎に、タイヤに対するコストと性能の最適化について、ますます厳しい目を向けるようになってきていると感じる。


桃田健史 MOMOTA KENJI

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