真っ先に普及すべきなのにほぼ「見かけない」! 商用車EVに立ちはだかる「壁」とは (2/2ページ)

装備を見直してバッテリー代を相殺できれば実現できる可能性も

 そこで何年か前から私が考えてきたのは、「100km100万円軽商用EV」の実現である。数字は、目標としてのひとつの象徴でもある。

 軽自動車の商用は80万円前後から購入できる。そこまで安くするのは難しいかもしれないが、約100万円で購入でき、実用距離で100km走れるEVのバンやトラックであれば、配送や、農業・漁業など一次産業の現場で使ってもらえるのではないかと考えた。

 実現に際し、装備の点では既存の考え方から変えていかなければならないだろう。たとえばエアコンディショナーは、広い室内の空気を冷やしたり温めたりするので効率がよくない。一方、シートヒーターやハンドルヒーターは直接的に体を温め、消費電力はエアコンディショナーの何十分の一でしかない。冷房のほうも、室内を冷やすというより、涼しく感じられるように体を直接冷やす、たとえば座席内側に送風ファンを使い、尻や背中から風を送る。三角窓も開閉できるようにして、走行風を導入するなど、新たな仕組みを検討する余地があるのではないか。

 しかもそれらは、エアコンディショナーより原価も消費電力も小さいことが条件だ。従来とは違った装備で人を快適にする方法を開発することで、リチウムイオンバッテリーの価格の高さを補えないだろうかという、EV専用設計が求められる。

 こうして、目標の価格と走行距離が実現できれば、軽商用より大きなクルマにはそれなりのバッテリーを増量したり、乗用車向けにはほかの装備も増やしたりしていけば、いまより安価なEVにできるのではないかと思うのである。

 もっとも実現が難しいと思われる軽商用のEV化で、装備を割り切った仕様を構築できれば、運送業や一次産業に従事する人に喜ばれるのではないかと考えている。それがゆくゆくは、大型トラックやバスに広がり、脱炭素社会に貢献できるといい。すでに中国からはEVバスが日本に導入される動きがある。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

新着情報