環境問題の「救世主」じゃなかったの? 最近「バイオ燃料」が話題にならないワケ (1/2ページ)

実質的にCO2排出量が増加しないと言われていた

 バイオ燃料とは、植物からつくられたアルコールを使った燃料をいう。ガソリンエンジン用とディーゼルエンジン用の2種類がある。もっとも有名なのは、ブラジルで使われているガソリンエンジン用のアルコール燃料だ。1930年代からサトウキビを使ったアルコール燃料を国内で使うだけでなく、輸出もしている。米国で開催されているインディーカーレースでも、アルコール燃料が使われている。そして現在は、米国がバイオ燃料の生産で世界1位だ。

 バイオ燃料がとくに注目されたのは1990年代の後半で、二酸化炭素(CO2)排出量制限が厳しく問われるようになったからだ。植物からつくられるバイオ燃料は、植物が成長するときにCO2を吸収し、光合成によって酸素(O2)を排出するので、大気中のCO2の削減に役立つ。さらに、これを燃やしてエンジンを動かしても、もともと大気中にあったCO2を出すだけなので、CO2の増加にはあたらないことになる。ただし、アルコール燃料を作るときや、使うために運ぶときに石油燃料を使ったのでは、そこでCO2の排出を増やすことにはなる。

 クルマとしてCO2の排出量は抑えられるが、アルコール燃料を燃焼させるとホルムアルデヒドと呼ばれる人体に有害な物質が排出されるので、その浄化策が必要になる。また、石油を使う燃料と違い、植物性の燃料は油分が少ないため、エンジン部品を錆びさせるなどの弊害もあり、使う際には防錆対策を行う必要がある。それでも、10%程度のアルコールを石油の燃料に混ぜる程度であれば、壊さずに済むようなエンジン製造が世界的に行われている。

 ところでバイオ燃料を多くのクルマで使用するには、広大な耕作地が必要だ。世界になお8億人近い人々が飢餓状態にある現状に対し、食料ではなく燃料のために耕作地を利用することへの疑問の声は以前からある。ブラジルは国土が広く、穀物の国内自給率は、小麦こそ50%前後だが大豆などその他は100%を超える水準で、輸出国でもある。そういう国では耕作地をバイオ燃料用に使うことも可能だろう。

 一方、日本のように平地が少なく、食料自給率が40%を切る状況で、燃料のために耕作地を利用することは適切ではない。耕作放棄地があるとしても、それを活用して食料自給率を高めることが優先される。同じことは、太陽光発電についてもいえる。ソーラーファームと称して平地に太陽光発電を大規模に設置していてよいのだろうか。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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