「自動運転車」でレースをするほうがよほど簡単! レーシングドライバーから見た公道での自動運転の難しさとは (2/2ページ)

手放し可能とかではなくいかにスムースな交通社会にできるかが鍵

 このときの経験で、モータースポーツはタイムアタックなら完全に無人化できると確信した。しかし、レースとなるとそのままでは適合できない。前を走るクルマを追い抜き、後方から追い越しをかけてくるクルマをブロックするなどの駆け引きが必要になる。さらに搭載燃料による重量エフェクトとタイヤの摩耗、グリップ変化をレースディスタンスの中で使い切るように演算する必要もあるだろう。

 アクシデントの際にいかに対応するか、ピットイン/アウトのタイミングや路面のデブリ対応など、プロのレーシングドライバーにとっても対応の難しい課題は多い。これらを克服していくことで、いつかは一般道でも役立つ自動運転システムに発展できるかもしれない。よく言うのだが、一般道を走るのはレースで走るよりはるかに難しく、恐ろしい。歩行者とクルマが共存する市街地など、できれば運転したくないと思ってしまうほど。

 つまりレースで使える自動運転のプログラムより、一般道、市街地で安全に走れる自動運転システムを構築するのはケタ違いに難しいことなのだ。

 そこで提案したいのは「カーtoカー」の通信。クルマ同士が通信で繋がっていれば、交差点の通行や進路変更、事故回避などで極めて有効に作用すると考えられるのだ。プロドライバーはつねに2〜3台先のクルマの状況を観察して事前察知に務めているが、クルマ同士が繋がることで予見性ははるかに高められる。さらに言えば、歩行者やドライバーの持つ携帯電話から通信をフィードバックすることで急な歩行者の飛び出しや夜間、雨天など視界が悪い状況にも対応できるようになる。

 レベル3とか、手放し運転とか見た目の「自動化」にこだわる前に、クルマ同士、歩行者との通信を可能にして安全な交通環境の確立を優先させてもらいたいと思うのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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