ポルシェ911は安心して加速できるクルマ
ポルシェ911
スポーツカーのモノサシとされることも多い911。現行モデルである992型は大幅改良を受けた。搭載されるエンジンは3リッター水平対向6気筒ターボで、RRレイアウトとなっている。コルベットに比べたら基本の部分は伝統を守っているといえる。エンジンの最高出力は394馬力だ。今となっては驚くほどのハイパワーではないし、人によっては「へぇ、911のパワーってそれくらいなんだ」と思う人もいるかもしれない。
モータージャーナリストの西川昇吾がポルシェ911とシボレー・コルベットに試乗画像はこちら
だが、このエンジンは実際に操ってみると「とてもよく出来ている」と感心させられるフィーリングであった。ターボエンジンだがトルクの立ち上がり方はグワっとくるような雰囲気がないし、大排気量自然吸気エンジンのようなスロットルに対して徐々にパワーが増えてくる扱いやすさがある。それでいて高回転域まで回すとスポーツエンジンらしく、回して楽しいパワーの出方をする。あらゆるシチュエーションでコントローラブルだ。
そして感じたのはボディのコンパクトさだ。911がモデルチェンジのたびに大きくなっているのは百も承知だが、現代の水準で考えるとコンパクトに感じる。いろんなスポーツカーを経験してから911のドライバーズシートに座ると「あれ? 思ったより小さくない?」、そんな雰囲気だ。このコンパクトに感じられるボディは走り始めるとより実感するものとなる。手に馴染むというか、しっくりくるというか、911独特のライトデザインもあってか車両感覚が掴みやすく、クルマとタイヤの位置が遠くなくて動きが把握しやすい。限界域でもクルマの状態が掴みやすそうな雰囲気だ。

コーナリングをするとフラットに近い姿勢が保たれているのが驚かされる。安定した姿勢で左右に舞える、そんな感触だ。世界イチといわれるブレーキは、奥でしっかりとインフォメーションがある印象。高速域からのブレーキングは絶対的な安心感とコントロール性がありそうだ。
「さすがポルシェ」と思わせる挙動に、ドライバーに恐怖感を一切与えないことも挙げられる。リラックスして、高速域まで加速できそうな印象で、どこまでも全開加速をしても怖さは一切ない……と思わせてくれた。エンジンよりもシャシー性能が高く、全開加速でも目が追いつく、そんなイメージだ。これはボディ剛性が高いクルマ全般で感じる感触なのだが、911はその頂点にあるようなクルマだと感じた。

大きく変わったコルベットは、大排気量自然吸気エンジンらしさ溢れるOHVエンジンと、ソフトで良好な乗り心地が不変に感じられた。そして911は速度による恐怖感をドライバーに与えない乗り味と、コントローラブルなブレーキが強く不変なポイントといえる。
長い歴史のなかでも、必ず守る伝統がある。この2台の試乗は、そのように感じられた時間であった。