この記事をまとめると
■プジョー205T16はラリー参戦のために200台だけ製造されたグループBホモロゲ車
■大胆なミッドシップ&4WD化でアウディ・クワトロを圧倒し16勝を記録
■公道仕様は荒々しい見た目に反して意外にも扱いやすいバランス型マシンだった
プジョーが作り出したグループB用の秘密兵器
究極の速さを求めたクルマはF1と相場が決まっていますが、クルマの形をしたまま究極の性能を求めたものといえば、グループBマシンとシルエットフォーミュラだけ。クルマ好きなら、大仰なフロントスポイラーやらブリスターフェンダー、あるいはパイプフレーム、エンジン縦置き改造などにクラクラきちゃうはず。
グループBなら、ホモロゲーションマシンとして、レーシングカーをソックリそのまま公道を走れちゃうという背徳感すら味わえるもの。とりわけ、大衆的なコンパクトハッチバックをミッドシップに大改造して、アウディ・クワトロに一泡吹かせたプジョー205ターボ16などは、その筆頭に違いありません。
プジョー205ターボ16は、その名のとおりプジョーの大ヒットモデル、205(通算530万台を販売!)をベースとしたホモロゲーションモデル。簡単にいえば、ラリーに出場するため、公道を走れる市販車として(ルール上)200台限定で作られたモデルということ。
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出走クラスは、いまでは伝説的ともいえるグループBカテゴリーで、これまた乱暴にいえば、カスタムは「なんでもあり」なクラス。もちろん、排気量や重量の規制はあったものの「そんなもん、どうにでもなるby ランチア」でして、彼らが軽量化のために消火器の中に消化剤でなく空気より軽いヘリウムを入れていたのは有名なエピソード(もちろん、違反が見つかりペナルティを受けています)。
この「なんでもあり」にほくそ笑んだのは、ランチアだけでなくプジョーのラリーチームを任されたジャン・トッドもそのひとり。トッドはご存じのとおり、のちにフェラーリを常勝チームに育て上げただけでなく、F1オーガニゼーションのトップにまで上り詰めたフランス人。彼はプジョーにとって最大限の宣伝効果を得るべく、205をベースに選んだまではよかったのですが、これにミッドシップ&4WD化を推し進め、社内からは猛反対を受けたとのこと。
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ですが、彼はことモータースポーツにかけては天才的な目ききであり、「調子に乗ってるクワトロとかいうクルマをやっつけるには4WDはもとより、ミッドシップじゃないとダメ」と当初から決め打ち。実際、グループBでは26戦中16勝という圧倒的な強さを見せつけ、205T16はランチアデルタS4やフォードRS200といったフォロワーまで生み出したのです。
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ラリーカーのパフォーマンスは、ギャレットエアリサーチ製タービンを装備した1775cc直4DOHCで450から、ステージによっては500馬力を発揮したとされています。さすがに、市販車では熱害や耐久性が考慮されて、202馬力/6750rpm、26.0kgm/4000rpmまでデチューンされていますが、1145kgという車重にはなかなかスパイシーな数字かと。このエンジンはもともとディーゼル用だったブロックに、新作のヘッドまわりを移植したもので、ラリーにおける耐久性も十分だったとされています。
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ここまで聞くと「ルノーには5ターボ2っていうホモロゲあるよ」という方もいらっしゃるかと思いますが、彼らは縦置き(ノーマルの5からして縦置きでした)で205T16は横置きです。ミッションこそシトロエンSM用の頑健なものが使いまわされていますが、駆動系に縦置き用の適当なものがなかったために、ちょうど助手席の後ろにオフセットしてあります。ちなみに、ホモロゲモデルではトルクステア的なものは感じませんが、500馬力を出しているラリーカーは、うっかりストレートも走れなかったといわれています。
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