人手不足といいながら「来る者拒まず」ではなくなったタクシー業界! コロナ禍後は「アプリ」と「語学」が鍵 (2/2ページ)

新人でもベテラン並みに稼げるように

 それなら、応募してくるひとはまさに来るもの拒まずとして、わかりやすくいえば、”誰でも”採用してもらえるのかと考えるのだが、ある関係者に聞くと「もちろん事業者個々で事情は異なりますが、いまでは採用面接を経て不採用となる応募者も目立っているようです」と語ってくれた。

 応募者の人柄という問題はあるのだろうが、異業種からタクシー運転士を志す際、退職したら翌月からタクシー運転士という流れができない現状も大きいようだ。異業種からの転職の場合はほぼ一種免許しかもっていないことになるので、養成乗務員として仮採用して事業者が指定する二種免許取得に対応している指定教習所での二種免許取得をまず行ってもらう。

 しかし、この教習所へ入所するまでに数カ月待つこともあるとのこと。さらに健康診断など、運転士になるための準備も多く、転職前の仕事に就いているなかでは、タクシー運転士となる準備がなかなか進まないとのこと。

 つまり、異業種からタクシー運転士となるのには、養成乗務員ではあるものの、数カ月の間は無職に近い期間が発生してしまうので(養成乗務員の期間は日当制が多いが、乗務員採用準備資金のようなものが出るケースもある)、そのあたりで応募者が断念することもあるそうだ。もちろん、採用側で雇用するには無理があると判断して断るケースも目立つようである。

 いままでは男の仕事臭の強かったタクシー運転士だが、いまでは女性運転士も広く活躍するようになってきている。さらに今後は、外国人運転士というものも増えてくるだろう。いまでも、五つ星ホテルなどでは日本人運転士ながら、英語が話せる運転士が重宝されている。

 そこで乗せる客の多くは、予算に余裕のあるインバウンドが多くなるので、稼ぎもさらによくなっている(長距離利用やその後の指名乗車も多い)。つまり、日本人より語学堪能な外国人運転士(日本語も含めて)の雇用は、事業者にとってもメリットはますます高まっていくだろう。

 スマホアプリ配車の普及、キャッシュレス決済、車外&車内ドライブレコーダーの設置、運行管理システムのDX(デジタルトランスフォーメーション)化などで、いまでは隔日勤務(朝車庫を出て翌日未明に戻ってくるシフト)であっても、女性運転士が過去よりはるかに安全に業務に就けるようになっている。

 外国人運転士の採用も含め、運転士の多様化と稼ぎ方の変化により、依然として運転士不足傾向となっているものの、まとめると、不採用の例もあるように、過去ほど来るもの拒まず的な環境にはなっていないのが、タクシー業界の現状のようである。

 話は逸れるが、東京23区内では現在、地理試験は廃止されている。過去には誰も知らないような抜け道を覚えて走ると喜ぶ乗客も多かったが、いまでは若い世代ほどカーナビで検索してもらい、そのルートで向かうことに安心感を得るようである。諸外国では、お客を乗せるとカーナビでルート検索し、もし検索ルートから離れると大騒ぎになることも珍しくなくなってきている(海外でタクシーに乗るとカーナビ検索ルートで目的地に向かうのは当たり前)。

 いままでのように、職人的にキャリアを積み、独自の経路や稼ぎ方(いつどこへ行けばお客がいるかなど)を確立して稼ぎを増やしていったベテラン運転士並みに、語学堪能でデジタルツールを使いこなせるキャリアの浅い運転士でも、性別問わずベテラン並みに稼ぐことが十分可能となっているのである。そのため、同業他社、つまりほかのタクシー事業者で経験のある運転士の雇用には、慎重になっている事業者も多いと聞いている。

 コロナ禍前からタクシー運転士をやっていたというひとと、スマホアプリ配車メインで稼ぐようなコロナ禍となってから運転士となったひとの比率は、いまや半々ともいわれており、皮肉な話だが新型コロナウイルスがタクシー運転士の世代交代を一気に加速させたともいえるだろう。

 現場では運転士の不足傾向が続くなか、それなりに需要が戻ってきているからこそ、運転士個々の収入アップにつながっているので、あまりドライバーを増やさないでほしいという声も、現場ではあるようだ。

 日本型ライドシェアは、ドライバーについて二種免許を必要としない以外は、事業者が運行管理を行い、タクシーとほとんどサービス内容が変わらない。タクシー事業者としては二種免許取得費用負担など乗務員採用コスト削減と、採用決定からドライバーデビューまでのタイムラグがほとんどないので、いまの日本型ライドシェアの姿が、将来的には業界の規制緩和として、日本のタクシーの新たな姿になるのではないかとの声もある。


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小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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