3つのペダルがあるけどどれもアクセルじゃない! 「初見殺し」なんてレベルを超越した「T型フォード」の運転方法をご紹介 (2/2ページ)

現代のMT車と比べても比にならない複雑さ

 さて、100年以上も昔のクルマですから、運転方法は現代車とはまったくといっていいほど違います。無論、ハンドルやアクセルといった根幹は違わないものの、うっかりしていると止まっちゃう、後進できないといった憂き目にすら遭うわけです。体験走行会にしても、事前に説明書が送られてくるといいますから、まず初見で走らせることは不可能かと。

 たとえば、フロアから生えるペダルこそ3本あるものの、真ん中だけ少し手前にあります。また、ペダルの役割も違っていて、右側がアクセルペダルと思いきや逆にブレーキペダルだったりするわけです。これでは発進すら叶わないこと、おわかりですよね。

 まず、T型フォードのペダルは左からクラッチ、真んなかで手前にあるのがリバース、そして右端がブレーキという配列です。アクセルワークはステアリングコラムの右、あたかもウインカーレバーにように生えており、ついでに進角調整レバーも生えています。

 年式によってエンジン始動は手動クランクかセルモーターになるのですが、このハードルはさして高くありません。で、エンジンに火が入ったら、まずは左のクラッチペダルの脇にあるサイドブレーキをフロント方向に倒すことでニュートラルからギヤのエンゲージポジションとなります。

 次に、ギヤをローに入れるのですが、クラッチペダルを真ん中くらいまで踏み込んでニュートラル、奥まで目いっぱい踏むと1速に入ります。ここで右のブレーキペダルから足を離し、アクセルレバーを下に下げるとT型フォードはスルスルと走りはじめてくれるのです。おそらく、初めて運転した方はここらへんで「イエー!」と口もとが緩むはず。ですが、1速から2速へアップするというハードルがあることもお忘れなく。

 発進後、アクセルを開けてスピードが乗ったところで、今度はアクセルをいくらか閉じてシフトチェンジの準備をします。回転がいくらか下がったところで、踏み続けていたクラッチをヒョコっと離すのです。すると、ギヤが2速に入るのですが、すかさずアクセルを開けてやらないと加速どころかエンストさえしてしまうはず。

 上手いことシフトチェンジできたとしても、アクセルと進角レバーをきちんと操らないとスピードの乗りも悪いわけで、慣れることが必要となってくるわけです。なお、後進は停止状態から真ん中の後進ペダルを使い、クラッチレバーと同じく踏み込むことでバックギヤに入ります。

 簡単にいってしまうと、T型フォードはいまでいうセミオートマみたいな操作に終始するわけで、きちんと整備されているクルマならさほど重さや気難しさを感じることなく運転できるはず。機構は少し違うのですが、戦前のプリセレクトクラッチというのは、T型フォードの1速ギヤと同じく、クラッチペダルを踏み込むことでシフトチェンジできるもの。ただし、このクラッチが重い上に回転が合っていなかったりすると勢いよくケッチン(跳ね返り)を食らうこともあるようです。

 ともあれ、現代のクルマに慣れきった頭と身体にとって、T型フォードのような古式ゆかしいクルマの運転は新鮮、かつ難易度高め。クルマ好きなら、チャンスを見つけて体験してみること超オススメです!


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石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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