この記事をまとめると
■外環の松戸~市川間は収支率573%と極めて大きな赤字が算出されている
■工事費が同距離区間の約3倍超となり金利負担と市街地特有の難工事が要因
■今後の道路整備には費用対効果を見極めた上で交通政策全体の見直しが必要だ
同じ距離でも収支がまるで異なるナゾ
今年度における自動車専用道路の新規工事に関する収支見通しは、2003年に国土交通省によって検討されていた。検討時期から20年以上を経ているが、その資料によれば、外環自動車道の松戸~市川間の収支は573%と示されていた。
ここでいう収支とは、通行料による収入見通しに対する管理費と金利による支出との比較である。573%とは、たとえば収入を100円とした場合、支出が573円に及ぶということで、大きな赤字が続くことを表している。
なぜ、巨額の赤字を生みだすようなことに陥ったのか?
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道路工事の距離は、松戸~市川間が10kmである。同じ外環区間の三郷~三郷南や、三郷南~松戸の距離を見ると、4kmと6kmなので、計10kmとなり、松戸~市川間の10kmと同じ長さになる。
これに対し総工事費は、三郷~三郷南と三郷南~松戸を合わせて3070億円(1200億円+1870億円)とある。一方の松戸~市川は総工事費が9700億円で、比較すると3倍を超えている。したがって、借入資金の返済における金利が高くつくことになり、またその借入金の時期によって金利水準が異なることも考えられる。
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事業収入は、三郷~三郷南と三郷南~松戸の10km区間が併せて44億円で、これは松戸~市川間の40億円に近い金額だ。管理費も3億円×2とされ、松戸~市川間の6億円と同等である。
松戸~市川間が、いかに金利負担の大きな工事であったか。また、総工事費においても、3倍強という巨額の負担を強いられる工事であったことが見えてくる。それでも、地下トンネルではなく、掘割スリット工法で行われる計画であったと記されている。
掘割スリット工法とは、道路を半地下構造とした掘割のようなつくりで、天井部は外に抜けた構造とすることにより、自然換気ができる特徴がある。換気のための設備を必要としない利点がある。加えて騒音対策においても有効な手法のひとつだ。
掘割スリット工法によって建設されたトンネル画像はこちら
それでも工事費用が巨額となった背景には、すでに多くの人々が住む住宅地があったり、市街地であったりしたことから、上下水道やガスなどの施設が縦横に敷設されており、その対応が必要だったはずだ。さらに、JR総武線や京成電鉄、東京メトロなどの鉄道がすでに敷設され、ほかにも京葉道路や国道14号線との交差などが絡んで、難工事になったとのことである。
この先、外環では練馬~世田谷間の開通が待たれているが、こちらも同様の既存の施設の下をとおる計画であるとともに、より深い深度の道路になる予定で、工事費の負担を含めて開業後の収支については予断を許さぬ状況が懸念される。
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ちなみに、赤字で象徴的な事例として紹介される東京湾アクアラインは、収支率が336%と20年前の資料にはあり、外環はそれ以上の赤字であることがわかる。
日本は、江戸時代から都市の人口密集が顕著だ。そのなかで快適に暮らし、利便性に優れた移動を確保するには、想像を超える費用負担があることを知るべきだろう。クルマの普及に対し、利用するうえでの所有と利用のあるべき姿などを検討し、公共交通との相互関係にまで目を配り、改めてパーク・アンド・ライドなどのような解決策を模索していく必要があるのではないか。