電動化に悩むどころか楽しんでない? フランスでシトロエンのEVにまみれてみたら遊び心の塊に笑いがとまらん (2/2ページ)

電動化の波が来てもシトロエンはブレない

 というわけで、シトロエンの最新BEVを堪能してパリ市内に戻ったら、今度はレトロなBEVがやってきた。シトロエン2CVでパリ市内を巡る観光サービスは何社かあるが、「4 roues sous 1 parapluie(キャトル・ルー・スー・ザン・パラプリュイ)」ではなんと、BEVパワートレインを移植したレトロフィット2CV(写真でグリーンのほう)を運用しているのだ。運転はできないけど後席試乗で、通常のICE版(ブラック&レッドのツートン)と比べながら、早速パリの中心部に繰り出した。

 フランスには旧車をBEV化するレトロフィットキットはけっこうあって、南仏のメアリクラブ・カシのそれが有名だが、この電動2CVは観光局やイル・ド・フランス地方、シトロエンの援けにより5年かけて開発された車両。2015年の気候変動会議パリCOP21のときに「マルグリット号」という昭和っぽいファーストネームまで付けて、路上デビューしたのだとか。欧州の街で旧車の乗り入れ禁止が始まったころだ。

 隣で通常の後期型602ccのエンジンがポロローッと、2気筒フラットツインの軽快な音を響かせるのと対照的に、電動2CVはスイスイと進む。運転手さんいわく、「確か10kWhもないはず」の小さなバッテリーはリヤトランクの床に積まれている。家庭用コンセントで3相交流220Vがとれるフランスの充電環境では、3時間の普通充電で約80kmほど走るそう。スペアタイヤも失われていない。

 足まわりはノーマルのままで、気もちリヤが沈んでいる感じはするものの、ボヨーンとしたバウンスが意外に素早く収まる、あの柔らかな乗り心地は損なわれていない。オリジナルのトレーリングアーム式リヤサスがいかに優秀か。しかもトランスミッションは3速、クラッチありのマニュアルシフトのままだ。

「十分にトルクがあるからいつも2速発進で、街なかでは3速にはときどき入れるぐらい。ICEよりシフト回数は圧倒的に少ないよ。1速ローギアは、ウチの会社のガレージのアプローチが急坂だから、そこで使うぐらいだね」

 続いてICEのノーマル2CVに乗り替えると、後席とはいえオイルやガソリンの匂いからして違う。シャンゼリゼ通りに差しかかると運転手が、かの有名なシャンソンのサビだけ歌いながら、「BEVのほうは静かだから最後まで聞いてもらうんだけどな」というジョークも飛び出す。かくして左岸に戻ってエッフェル塔前を通過し、ホテルに戻った。

 翌日は発表されたばかりの2代目C5エアクロスのタッチ&トライに向かった。早晩、7人乗りモデルも登場するであろう全長4652×全幅1902×全高1688mmのボディに、2784mmのホイールベースは先代比+6cmで、ファミリーカーとしての資質に磨きをかけたという。航続距離520kmのショートレンジ版と680kmのロングレンジ版が用意されたBEVがトップ・オブ・レンジかというと、そうともいえない。

 仕向け地によって、PHEVや48VのMHEV、180馬力の出力を誇る純ICEまでパワートレインは5種類も用意されており、すべてメイド・イン・フランス、レンヌ工場の同じラインで生産される。バンパーのような大型パーツは自社で成型するために、レンヌ工場は270億円相当を投資して設備をリニューアルしたとか。

 水平基調のエアコン・ベンチレーターを重ねた、真一文字のダッシュボードにステアリングと13インチのタッチスクリーンが浮かぶ様は、並のデザインなら寒々しくなるはず。でもさすがシトロエンは滋味深いというか、ファブリックの柔らかな素材感にグラデーションで調光可能なアンビエントライトをかぶせることで、優しいタッチを忘れていない。ドアを開けると気づくのだが、左右両端には音符記号をあしらったスピーカーまで、一体型で成型されている。

 残念ながらC5 Xは現行限りで後継へのモデルチェンジはしないが、そのぶん、シトロエンのフラッグシップを担うことになったC5エアクロスは、内外装の静的質感が各段に向上している。それにカナード形状で空力を兼ねたリヤコンビランプは、プロトタイプのオールイーから引き継いだディティールそのもの。アイディアを市販車にカタチとしてきっちり落とし込んでいるのだ。

 しかも日本導入仕様として可能性が高いのはMHEVモデル、3気筒1.2リッターターボを136馬力にまでチューン、48Vシステムの駆動モーターで巨躯を走らせる仕様だ。この小排気量エンジンと、近ごろのグイグイ気味な積極制御のMHEVの組み合わせは、とてもシトロエンらしいレバレッジの利かせ方といえるのではないか。アドバンストコンフォートシート&サスペンションがどう進化しているかも含め、2026年前半の上陸予定を楽しみに待ちたい。


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南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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