完成までにかかるもかかったり4000時間
が、フュステルの思惑は意外な、そして高い壁に阻まれてしまいました。修復作業そのものは大したことなかったようですが、屋根を切り取りソフトトップのスペースを作ることが困難を極めたとのこと。前述のとおり、複合素材(カーボンケブラー)があっちゃこっちゃに散りばめられている959ゆえにおいそれと切った貼ったでは済まされなかったのです。結果、完成までに4000時間を費やしたとされ、フュステルは二度と同じ作業をしたくないといったとか。
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しかしながら、この4000時間はじつに有意義なもので、フュステルはなんと3タイプものボディバリエーションを完成させたのです。ひとつめはいうまでもなく電動のソフトトップを備えたカブリオレ、ここに塗り替えられたグランプリヴァイスのボディと共色のハードトップを用意して、クーペスタイルも楽しめることに。そして、フロントスクリーンをピラーの根もとから外して、より低くて傾斜の強いスクリーンに交換可能とすることでスパイダースタイルも実現。
ちなみに、ハードトップやスパイダースクリーンは専用の豪華な木箱まで用意されており、コレクター心をかきむしることまでやっています(笑)。
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完成後、1989年のフランクフルトモーターショーに出品したところ、瞬殺で売れてしまったというのも大いに頷けます。価格は堂々の120万ドル(当時のレートで1億5000万円ほど)だったそうですが、希少価値というだけでなく、フュステルの情熱にすら値段が付いたといえるのではないでしょうか。
その後、ドイツ国内のコレクターの手もとで時を過ごした959スパイダーですが、このほどオークションに出品されました。落札価格は129万8750ユーロ(約2億1000万円)と、ほぼほぼ予想どおりの結果だそうです。
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たしかに世界に一台といわれればそのとおりなんですが、とどのつまりは事故車を社外ファクトリーが改造したクルマと見たら法外なプライス。959の神通力が驚異的な強さとでも考えなければ、なんだか鼻白むエピソードではないでしょうか。