このアストンマーティンはニセモノなのかホンモノなのか!? レプリカだけどデキのよさにメーカーが公認した「DB4GTザガート・サンクションII&III」 (2/2ページ)

あまりの完成度の高さに公式も承認

 ウィリアムスはゼロからザガートを作るのではなく、DB4GTのオーナーふたりに声をかけ「ザガート化」をもちかけただけでなく、アストンマーティン本社からの承認まで得ることを狙ったのでした。が、当のザガートではすでにボディを作れる職人が退職しており、アルミを板金する治具、木型も残っていませんでした。なので仕方なく、ザガートを退職した職人、マリオ・ガルビアッティに頼み込んで製作することに。

 この際、ウィリアムスは自身で所有していたDB4GTザガートをもちこんで、「これと同じにして」とオーダーしたのです。イタリアの職人にとってサンプルがあればそっくりさんを作るのは朝飯前、なのでしょう。その出来映えは誰もが認める素晴らしいもので、当のアストンマーティンですら思わず「ザガートとして承認」してしまったのです。

 ただし、サンクションIIを名乗ること、ボンネットフード上のバルジをふたつから3つに増やして見分けができるようにすることを命じました。このあたりがメーカーの良心ともいえそうですが、ウィリアムスがアストンマーティンのAMR1プロジェクト(グループCカー)に対して多額の投資をしていたことを忘れてはなりません。お金の力に物をいわせたと、後世の史家が警鐘を鳴らすのも至極もっともな話かと。

 1992年、ウィリアムスはさらに余っていたパーツでもってサンクションIIIを2台製作しています。が、こちらは吊るしのDB4がベースであり、ボディについてもザガートでもガルビアッティ製でもないとのこと。

 ですが、アストンママーティン、ザガートともに「これ以上のサンクションは作らない」と約束させた上で承認しています。正規車のわずか19台という希少性を損なうこと、万が一にも「本物」と扱われてしまった場合の責任を危惧したのではないでしょうか。

 実際、ウィリアムス自身がどれほど儲けたのかわかりませんが、いまのところサンクションIIで4億円、IIIになると2億円ほどと、本物の10分の1程度で吊るしのDB4並みの取り引き価格に落ち着いています。いかにメーカー承認モデルといえども、元ザガートの職人が作ろうとも、リプロダクションの域を越えていないということでしょうか。

 最後に、先日亡くなったエルコレ・スパーダ氏(DB4GTザガートは、彼がザガート入社後初めてデザインしたモデル)に、サンクションについてコメントを求めた際は、寂しげに微笑みつつ、首を左右に振っていたことお伝えしておきましょう。


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石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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