この記事をまとめると
■かつてあった大幅値引きは減退し在庫処分時以外は見られなくなった
■奨励金縮小や安全装備・電動化対応でのコスト増により販売会社の利益も圧迫
■納期遅延や残価設定ローンの普及で買い手の値引き要求も弱まっている
複合的な要因で値引きは消えた
販売店では「いまは昔のような値引き販売は無理」と口をそろえる。次期型のプロトタイプが公表されて現行型の生産が終わり、それでも在庫が残っている時などは、在庫処分のために通常とは異なる値引きで販売することはある。しかし昔と違って「車両価格の15%を超えるような通常の値引き販売はあり得ない」という。
この背景には複数の理由がある。まず販売奨励金(いわゆるインセンティブ)の大幅削減だ。以前は決算期などに、メーカーから販売会社に多額の販売奨励金が支給された。これを原資として、値引き額を増やしていたのだ。しかし2000年代に入って販売奨励金が減りはじめ、とくにリーマンショックの2008年以降は大幅に減らされた。そのために決算フェアなども含めて値引き額が減っている。
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販売店からは「クルマの価格が高くなっているのに、車両販売に伴う1台あたりの利益は据え置きかむしろ減っている」という話も聞かれる。これはどういうことか。
まず、近年のクルマは衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能を中心に装備が充実している。これはコストアップを招く。さらに人件費、原材料費、輸送費なども高騰している。その結果、1台あたりの開発/製造/流通に要するコストは大幅に高まった。
そこでクルマも値上げしているが、「車両価格の上昇は、開発や製造における1台あたりのコストアップに届いていない」というのがメーカーの主張だ。
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いい換えれば、以前に比べて値上げしたものの、1台あたりの利益は減っている。しかも最近は、以前と違って電動化、自動運転、通信機能などに対する開発費用も増えた。そこでメーカーと併せて、販売会社の車両販売に伴う利益も減らされ、値引きにまわせる余裕が乏しくなった。
このほかの理由として、車種によっては納期の遅延や受注の停止も影響している。需要に対して車両の供給台数が少ない状態では、いわば売り手市場だから、わざわざ値引きをする必要はない。
また最近は、新車を買う人の約半数が残価設定ローンを利用する。残価設定ローンを使っても値引きは可能だが、もともと月々の返済額が安いから、値引きをしても出費に大きな差は生じない。そのために現金購入ほど値引き額にはこだわらない人が増えているという。以上のようにさまざまな事情があり、最近は値引き額が減っているのだ。