この記事をまとめると
■日産モータースポーツ部門NISMOが40周年を迎えた
■記念にL型直列6気筒エンジン用のDOHC化キットを2025年秋に発売予定
■性能追求と現代技術を融合したその内容を解説する
昭和の名機を蘇らせるプロジェクトが結実
日産車やレース、あるいはカスタマイズ好きなら「NISMO」といえば「ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(株式会社)」と即答する人も少なくないと思いますが、3年前の2022年にひっそりと「日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社」へと社名変更していたことを知っているという人は意外と多くないのではないでしょうか。
そんな「NISMO」は社名変更後も継続され、昨年の2024年9月でブランド設立40周年を迎えました。その周年記念企画のひとつとして、「L型6気筒エンジン用 DOHC変換キット」を、2025年内の市販に向けて開発していると急遽発表したのです。
日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社に改名されたニスモ画像はこちら
いろいろな意味で心配が先に立つ「NISMO」の目玉企画がいったいどんなものなのか、世に流れている情報をもとに、その実像を探ってみましょう。
L型エンジンとは?
「L型エンジン」とは、日産が1965年にリリースした直列6気筒のシリーズです。初めて搭載されたのは「セドリックスペシャル6(130型)」で、それまでの6気筒シリーズ「J20型」に代わって新シリーズとして採用されたのが「L20型(初期モデル)」でした。
「L20型」の排気量は1998ccで、水冷の直列6気筒レイアウトです(ほぼ同じ構成で2気筒を省いた4気筒シリーズもあります)。主なところでは、ハコスカこと「スカイライン2000GT(GC10系)」や初代「フェアレディZ(S30系)」をはじめ、日産の多くの車種に採用された、1970年代の日産を支えた長寿エンジンです。
発売当初の日産L型エンジン画像はこちら
排気量は2リッターの「L20型」に始まり2.8リッターの「L28型」まで拡大されました。バルブ駆動方式も、それまでの主流だったOHV(クランクシャフトの近くにカムシャフトがあり、プッシュロッドでヘッドに備わるバルブを駆動する方式)から、カムシャフトがヘッドの上部に備わるOHC(SOHC)方式という先進的な機構に変更されました。
いまではほとんどのエンジンが「クロスフロー」という、吸気と排気の向きが反対方向になるレイアウトを採用していますが、この「L型エンジン」では「ターンフロー」という、吸気と排気の向きが同じ方向のレイアウトを採用しているのが特徴で、吸気ポートから入った混合気は燃焼室で燃焼したあとでUターンする形で同じ向きの排気ポートから出ていきます。
このターンフロー式は生産効率や低速域の燃焼性の点ではメリットがある一方で、熱の問題や高回転域での吸排気効率、燃焼効率の点などで不利なレイアウトで、レースで通用する出力を得るには厳しいとされています。ちなみに、チューニングベースとして長い間愛用されたことから出力は向上しつづけ、フルチューンと呼ばれる究極のメニューでは、ターンフローのまま3.2リッターに排気量アップして、NAでじつに350馬力オーバーというレベルにまで到達しています。
フルチューンを受けたL型エンジン画像はこちら
NISMOのDOHC変換キットとは?
さて、そんな背景をもつL型エンジンですが、2025年2月に、日産車のレースとチューニングの総本山であるNISMOから、新たに「L型エンジン用のDOHC化キット」を装着したエンジンと車両がショーでお披露目され、旧車の界隈を大いに賑わせました。
情報通の筋では、「なぜいまさら?」とか「(こんな時期に)まさかニスモが本気で発売するわけないだろ?」など、期待と懐疑が入り交じったウワサの考察があちこちで流れていたようですが、「40周年記念商品」というワードが販売の信憑性を高めていました。
L型エンジン用のDOHC化キット装着エンジンを搭載した車両画像はこちら
そしてそれから4カ月後の6月19日に、そのキットが秋ごろに発売されるというニュースがNISMOから発信されたのです。これには期待していたファンも「まさか本当に出るとは……」と驚きが隠せない不意打ちだったようです。
8月現在の発表では、写真での姿と使用パーツのデータしか公表されていませんが、わかる範囲から、推測をまじえてどんなエンジンなのかを追ってみましょう。