この記事をまとめると
■国交省が日本郵便に対し運輸事業許可取り消しを決定した
■全国郵便局の75%で点呼不備が発覚し軽バンを含めた配送車両が使用禁止に
■事故リスクを高める飲酒や体調不良予防のための点呼欠如は看過できることではない
日本郵便に重大処分の衝撃
国土交通省は、日本郵便に対し、法令で定める点呼を適切に行っていなかったとして運輸事業の許可を取り消した。これにより、トラックやバン、集配の主力となっている軽自動車のバンが使えなくなることになる。
日本郵便自社による調査の結果、全国に3188か所ある郵便局の75%に相当する2391カ所で、法令で定められた点呼を適切に行っていなかったことが明らかになり、国土交通省が貨物自動車運送事業法に基づいて監査をした結果、上記のような処分が決まった。
街なかで見かける軽のバンについても、全国で2000前後の郵便局での使用が禁じられる見とおしだ。
郵便配達に使用される軽バン画像はこちら
貨物自動車運送事業法は、クルマを使い、有償で荷物を運ぶ事業を行う際の法律だ。そして日々の点呼は、安全運行の要と位置付けられている。
点呼の目的は、飲酒や違法薬物などの摂取による悪質な違反の防止、車両の故障や体調不良など健康にまつわる事故の予防のほか、運転者と事業者との意思疎通といったことも含まれている。
長距離輸送はもちろん、近隣の配送を含め運送の仕事は負担が大きい。肉体的な疲労はもちろん、安全を意識した運転は神経を使い、精神的な疲労も大きいだろう。したがって、仕事あけや休日に酒を飲んで開放するといったこともあるだろう。
しかし、飲酒後のアルコールはどれくらいで抜けるのかはあまり正確に認識されていないのではないか。旅客機のパイロットでさえ、過去に飲酒後のアルコールで問題が生じているにもかかわらず、つい最近も飲酒の影響でフライトの遅れを生じさせている。
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実際のところ飲酒後のアルコールはなかなか抜けない。たとえば、500mlのビール1缶を飲んだあとアルコールが抜けるのは5時間後であるという。もちろん個人差もあるが、チューハイだと350ml、日本酒だと1合以下の0.8合(160ml)、ワインならグラス2杯で5時間はかかるということだ。それ以上の飲酒になれば、当然より多くの時間を要する。
寝ればよいのではないかとの考えもあるだろう。ところが、睡眠中は内臓の働きが鈍るためアルコールの分解機能が落ちるとされる。では、運動して汗をかけばいいのかというと、これは発汗による脱水によってかえって血中のアルコール濃度が高まる可能性がある。
しかも、酒気帯び運転の基準とされる血中アルコール濃度0.3mg/ml、呼気のアルコール濃度0.15mg/lより低い値でも、運転操作に支障が出る可能性があるとのことだ。具体的には、集中力の低下、多方面への注意散漫、反応時間の遅れ、規制の無視など、いくつかの項目があがっている。
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飲酒だけでなく、体調不良でも同様に適切な運転操作や状況判断が鈍るだろう。また、始業前の車両点検が適切に実施されているかも点呼によって適切に確認する必要がある。
運送事業者として当たり前のことができないでいる事業者に、クルマの運転を任せることへの不安が拡大したことで、今回の厳しい処分が下されたといえる。
法令で定められた適切な運用が行われなければ、万一の事故に際し損害保険が適用されず、交通被害者の補償が損なわれる可能性も出てくる。旅客ではなく貨物輸送であっても、単に点呼をしませんでしたということでは済まされないのである。