空冷にこだわるオーナーに魅力を聞いた
「最新のポルシェが最良のポルシェ」といった格言があるほど、素晴らしいモデルが存在するのに、なぜ空冷モデルにこだわっているのでしょうか。実際に所有している複数のオーナーに話を聞いてみたところ、一様に「別に空冷にこだわっているわけじゃないよ(笑)」との回答でした。
その理由はさまざまで、ある964型のオーナーは、「長年乗り続けているから体に馴染んでいる」そうです。930型のカレラを約20年所有するオーナーは、「子どものときからの憧れのクルマだったから」とのことでした。また、別の930型を所有するオーナーは、「992.1型のカレラT(MT)ももっているけど、あまりに従順すぎて物足りないと感じることがある。930のほうが、ドライバーがクルマに合わせて運転する『この緊張感こそが911を運転している』といった手応えが得られる」そうです。
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また、あるナローポルシェオーナーによると、「現代の911は文句なく素晴らしいけれど、大きくなりすぎたし、パワーがありすぎてもはや自分の手に負えないクルマになってしまった」と話してくれました。とはいえ、少なくとも筆者の周囲では「水冷モデルは認めない、911は空冷に限る」といった声は聞かれませんでした。むしろ、「長年乗ってきたし、体にも馴染んでいるし、わざわざ乗り換えようとは思わない」といった意見が大半でした。
ひとつ付け加えると「買えるなら俺だって(992が)欲しいよ。もちろん増車でね」だそうで、根っからの911好きにとっては、可能であれば両方とも所有したいというのが本音なのかもしれません。
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古いモデルほど味わえる「911の味の濃さ」
筆者自身、1970年式の911Sに乗っています。いわゆる「ナローポルシェ」と呼ばれる年代のモデルです。公私ともに新旧さまざまな911に触れる機会があるなかで、もっとも衝撃を受けたのがカレラRS2.7、いわゆる「ナナサンカレラ」と呼ばれるモデルでした。50年以上も前にこれほどのクルマが市販されていたとは! 当時は異次元の存在だったに違いありません。
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これまでオーナーさんのご厚意で何度か運転する機会に恵まれ、そのたびに50年以上も前のクルマとは思えないほどのパワー、レブリミットである7200回転付近までエンジンをブンまわしたときにまるで血液が沸騰するかのような強烈な体験はいまでも忘れられません。
筆者のナローポルシェも、クーラーはもちろんラジオすらありません。快適装備は皆無です。夏場に乗ると拷問です。「そんな不便なクルマのどこがいいの?」と聞かれることもしばしばです。それを補ってあまりあるほど魅力的だから……に尽きます(なかなか理解してもらえませんが……)。運転しながらベストなエンジンの回転域、ギヤ、アクセルの開度、運転しながらそんなことばかり考えています。実際に正解かどうかはわからないけれど、911が発している「こんな感じで走れよ」という声なき声を必死になって読み取ろうとしています(実際にはなかなかうまくいきませんけれど)。
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これが最新のモデルに乗ると、なんだかこちらが申し訳なるくらい従順で我慢強いことに驚かされます。ドライバーの技量に合わせたうえで、まごうことなき「911の味」を堪能させてくれるのです。ただ、この「911の味」を再現するためにさまざまな添加物が加えられていることも事実です。それを否定・批判するのは簡単ですが、むしろあらゆる規制をクリアしつつ「911の味」が実感できることに目を向けるべきではないかと考えています。
あくまでも自分にとっての見解ではありますが「混じりっけなしの純度100%の911が好みだった」ということなんだと思います。とはいえ、この先にはショートホイールベースのナローポルシェや356といった、よりディープな世界が控えています。まだまだ奥が深そうです。
まとめ:「いきなり空冷デビュー」は相当な覚悟を
大前提として、空冷911の最後のモデルである993型ですら、すでに30年選手です。新車ワンオーナー、ガレージ保管。どれほど見た目がキレイでも、走行距離が2万km台であっても、オギャーと泣いて生まれた赤ちゃんが立派な大人になるくらいの時間が経過している「旧車」であることは隠しようのない事実です。
ただでさえ高騰してしまった空冷モデルの車両本体価格に加えて、相応のメンテナンス費用が追加されることを覚悟しておく必要があります。
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中古車として手に入れた状態でそのまま乗りっぱなしでOK……なんてことは、ハナっから期待しないほうがいいです。遅かれ早かれ、大規模な修理が必要になる可能性を秘めています。それも高い確率で。
そしてこれが非常に重要なのですが、空冷モデルの911に精通し、適切な修理とアドバイスをしてくれる「主治医」の存在次第で、その後の運命が大きく変わります。
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日本には空冷911に精通したさまざまな「名医」がいますが、誰がいちばんなのかという問いはナンセンスです。「この人に診てもらいたい」と思ったら直談判してみてください。なかにはすでに多くの顧客を抱えているので正面突破では整備を受けてくれないこともあります。1度で諦めず、何度も通いつめることで受け入れてくれる可能性もあります。それでもダメな場合、ポルシェ仲間に紹介してもらうことで門戸が開かれるかもしれません。