街なかでの女子ウケはサイコーだった
そして肝心の高速移動はどうだったか。ひと言で表すなら、まったく不満なし、だ。いうまでもなく爆発的な中間加速や目の眩むような最高速とは無縁だが、必要なときに必要なだけの加速性能はしっかり発揮してくれるし、120km/h区間の法定最高速度なんて余裕綽々。じれったさも力不足も感じることはなかった。
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高速走行時のフラットな乗り味にも驚かされた。街なかでちょろちょろ走ってたときには少しばかりコツコツした感触もあったけど、それでも不快という言葉とは縁遠い。車体の剛性感も高いし、サスペンションがしっかり自分の役割を果たしてることもあって、17インチを履く試乗車とは別のグレードの15インチはもっとまろやかなんだろうな、そっちにも乗ってみたいな、と感じたくらいで、ネガティブな印象はひとつもなし。
ところが東名高速に滑り込んで速度を上げていったら、さらに好印象。いや、マジメにビックリさせられた。路面の凸凹やザラつき、ワダチやうねりといった外乱に遭遇しても、嫌な突き上げ感のようなモノに気を取られることがなかった。シートが見た目以上によくできてることもあって、ちょっとばかり「車格にそぐわないんじゃないか?」と考えちゃったくらいの快適さだ。車体は小さいものの、トレッドに対してホイールベースが長いことやスタビリティが高いことが効いてるのだろう。高速域でも直進性が高くて、まっすぐ走ることに対して神経質になる必要もなかった。
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そんなこんなで途中に一度、新東名のサービスエリアでの充電をはさみ、僕と編集担当というふたりのオヤジは、車格から覚悟してたよりぜんぜん疲れなかったことに喜びを感じつつ、インスターの期待以上の出来ばえのよさに半ば脅威を感じつつ、ロングドライブの旅を終えたのだった。
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が、話はそこでは終わらない。じつは後日、インスターの好印象っぷりに、僕はヒョンデからあらためてインスターを借り出して、1週間ほど一緒に暮らしてみたのだ。
クルマを受け取ってまず最初にしたのは、ワインディングロードにもち込んでみること。ロングドライブでは、そういうシチュエーションで走らせることができなかったからだ。もちろんスポーツカーじゃないことなんてわかってる。が、そうであろうとなかろうと、動きが鈍かったり腰砕けみたいになっちゃうクルマよりも──いや、そういうクルマで綺麗にコーナリングできるよう攻略していく逆説的な面白さというのもあるにはあるのだけど──自分の狙ったとおりにシャープに素直に素早く曲がってくれるクルマのほうがストレートに楽しいし気もちいいでしょ? なわけだ。
インスターはどうだったか。背は高いし前後のトレッドは広くないしとディメンションとしては不利だったりはするのだけど、いや、これは及第点以上だろう。攻め立てるようなスポーツドライビングに難なく応えられるようなタイプとまではいわないけれど、思いのほかよく曲がる。コーナーを気もちよく駆け抜けてくれる。重心が低くて適切な重量配分が可能というBEVならではの利点はこのクルマにももちろん活かされていて、同じような車格の内燃エンジン車と較べれば操作に対して無理なく素早く素直に反応するし、足腰の座りがよくて安定感も高い。
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ステアリングはクイックとはいえないけれど、それだけに誰もが違和感なく自然な感覚で操舵できるし、何より車体の動きが鈍いわけじゃない。高さがあるからそれなりにロールもするが、その動きはしっかりと抑制が利いたもので、だから怖さはないし、むしろドライビングのリズムを作るのに役立ってくれる感じ。とまぁ理屈はいろいろ並べられるのだけど、ひと言で表すなら、つまりは「わりと楽しいよ」である。
そして暮らしのなかに組み入れてみて、あらためて強く実感したのは「このサイズ、最高!」という事実だ。何度も同じことを述べるようだけど、前述したとおりのメリットは日々の暮らしのなかでこそリアルに浮き彫りになってくれるもの。日課にしてる食材購入のためのゴチャついたスーパーマーケットの駐車場で、毎日、僕が偉いわけでも何でもないのに勝ったような気分になってニヤついていた。荷物積み込みの自由度も高いから、ただでさえそこはかとなく楽しい買い物がさらに楽しくなった。
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もうひとつは、まわりの視線だ。都内の繁華街で停車したとき、インスターに気づいた若い女の子が小走りに近づいてきて、スマホを取り出してニコニコしながら何カットも写真を撮って、また小走りで友達のところに戻っていった。とあるカフェの駐車場ではまた違う若い女子に「すみません、写真撮っていいですか? ……あ。クルマの」と声をかけられ、「何ていうクルマですか?」「どこで売ってるんですか?」などなど、説明を求められた。友人・知人の集まりに乗っていったら、さすがにスマホを向けたりはされなかったが、「かわいい!」と大人女子たちにも大好評で、おまけに「あなたには似合わないけどね。キャハッ」という評価まで頂戴した。
ほかにも似た事例がいくつかあって、やたらと女子ウケがいいので軽く聞き取り調査っぽいことを行ってみたら、そこに真実が隠れてた。インスターは、その存在を知らなかった人をも惹きつけて笑顔にさせる力をもっている、ということ。女性たちが「乗せてほしい」じゃなくて自分が「乗りたい」クルマとして関心をもつケースが多い、ということ。訊ねてみたら20人ほどの女性の100%が「かわいい」と評価したこと。なかなかいい線いってるな、と思った。
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けれど、そこには真実と一緒に問題も隠れてたのだ。応えてくれた人のほとんどが、「電気自動車は未知の乗り物でどうやって扱えばいいのか、日常的にどうつきあったらいいのか、ぜんぜんわからない」というような理由で尻込みしちゃってるのだ。やってみればムズカシイものでもないっていうのに。これはインスターに限らず、BEV全体に関していえることなのだろうけれど。
そして、もうひとつの問題があることも知った。こちらはとても個人的なことではあるのだけど、「あなたには似合わないけどね。キャハッ」である。故・鳥山明さんの『Dr.スランプ アラレちゃん』の作中に登場してきてもおかしくないようなスタイリング、かわいくて気に入ってるのだけど、あまり人相がいいとはいえないオヤジには似合わないらしい。
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友人・知人のひとりの意見だから無視しようかとも思ったのだけど、念のためにほかの何人かにも訊ねてみたら、あーまぁ気を遣ってくれてるんだよな、というような言葉や仕草ばかり。……うーむ、まいった。
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