お墓の移転は想像以上に大変
そして本件は、善行院が道路計画とお寺の移転自体に反対しているわけではない。円満かつ速やかに、寺と墓を新しい場所に移すこと自体には同意している。だが、東京都が「道路建設に関わる部分の代替地しか保証しない方針」をとり、約200基の墓のうち、都市計画道路にかからない約70基は補償の対象外としていることで、いまなお揉め続けているのだ。
善行院としては、「本堂とすべてのお墓を合わせてひとつのお寺」と考えているのだが、東京都から提示された代替地では、すべてのお墓を移転させることができず、お寺が分断されることになってしまうため、「その案では承諾しかねる」ということになっているわけだ。
また、墓の移転には、そもそもきわめて高いハードルも立ちはだかっているという問題もある。
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お墓を動かすには「持ち主すべてに改葬の同意を得る」「新しい墓地の許可申請と改装の許可申請、元の墓の廃止許可申請を行う」「新しい墓地周辺住民への説明会を実施する」「継承者や縁故者がいなくなった無縁墓を調査し、遺骨を合祀する」「土葬していた遺体を掘り返し、火葬する」などを行う必要があり、一般的な住宅の立ち退き移転とはケタ違いの労力と時間がかかるのだ。
さらにいえば、そもそも1946年に都市計画が決定された際、当時の住職はシベリアに抑留されており、当時お寺にいたのはご夫人とお子さんだけ。住職不在のなかで合意された(?)都市計画に基づき、さらには不十分な補償案でもって「とにかく移転してください」といわれても、お寺の責任者としてはそう簡単に「はいそうですか、わかりました」とはいえないことは、何らかの責任ある立場に立ったことがある者ならば、誰もが容易に想像できるだろう。
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筆者もひとりのドライバーとして放射第7号線にはぜひ全面開通してもらい、交通の利便性向上に役立っていただきたいとは思っている。しかし、よくよく事情を調べてみると、お寺さん側のいいぶんと事情もよくわかってしまうのだ。
となれば無理やり道路を通せともいえず、善行院がある1km区間は地下を掘ってアンダーパス方式にするしかないのでは? とも思うわけだが、東京都にはそんな気はさらさらないようで、工事はいま、墓地のすぐ手前まで粛々と舗装が完了している。
放射第7号線は、どうなるのだろうか。そして東京都は、この問題をどう決着させるつもりなのだろうか。