信号機の横にある「警察マークの箱」って何が入ってる? 要人の通行からマラソン大会まで使われる中身とは (2/2ページ)

要人をスムースに走らせる以外の用途も

<VIP通過時に威力を発揮する手動制御>

 この制御盤がもっとも活躍するのは、VIPが通過するときだ。海外要人や御料車が通過する際、警察官はこの制御盤を操作して通過方向の信号を青にし、交差する道路の信号を赤に固定する。

 御料車とは、天皇皇后両陛下や皇族の方々が使用される車両のことで、その通行には最高レベルの安全確保が求められる。また、海外からの国賓や政府要人が来日した際にも、同様の警護体制が取られる。こうした場合、車列が交差点で停止することなく連続して通過できるよう、警察官が事前に配置され、制御盤を操作して信号を制御するのである。

 この手順はシンプルだが、緻密な調整が必要だ。警察官は信号制御盤の鍵を開け、内部のスイッチやボタンを操作する。多くの場合、専用の「手動制御モード」に切り替えることで、自動制御を一時停止し、信号を赤に固定する。この操作は数分から十数分程度で終了し、車列の通過が完了すると通常の信号制御に戻される。操作自体は迅速だが、警察官は事前に通過時刻やルートを把握し、タイミングを正確に合わせる必要がある。

 また、この制御は単なる信号の停止ではない。一部の最新の信号制御盤では、周辺の交通状況を考慮して、赤信号の時間を最適化する機能が備わっている。たとえば、車列の規模や通過速度に応じて、赤信号の持続時間を調整できる。これにより、必要以上の交通渋滞を防ぎつつ、要人の安全を確保するバランスが取られている。これは緊急車両の通過時にも同様の操作が行なわれることがあり、救急車や消防車が迅速に目的地に到達できるようサポートする。

 この制御は、都市部の複雑な交通網ではとくに重要だ。東京や大阪のような大都市では、複数の交差点が連動しており、ひとつの信号の変更が周辺の交通に大きな影響を与える。そのため、警察は信号制御盤の操作を通じて、交通全体の流れを調整する役割も担っている。これら普段なにげなく見ている信号機の裏側に、驚くほど緻密なシステムが隠れていることに気付かされる。このような操作により、VIPを乗せた車列がスムースに、そして安全に目的地まで移動できるのである。

 さらに、マラソン大会などのイベント時にも、この制御盤は重要な役割を果たす。大会中は特定のルートの信号を固定する必要があるため、警察官が手動で信号の色を固定し、ランナーの安全な通行を確保する。都市型マラソンでは、コースとなる道路の信号を長時間にわたって制御する必要があり、自動制御では対応が難しいケースも多い。大規模なデモやパレードなどの際も同様だ。

<緊急時にも対応する多機能な装置>

 制御盤の機能はVIPの通過やイベント対応だけにとどまらない。信号機がエラーを起こした場合の復帰ボタンや、点滅信号への切り替えスイッチも内蔵されている。夜間の交通量が少ない時間帯に黄色点滅運用に切り替えたり、逆に朝の通勤時間帯に通常の信号制御に戻したりする際にも、この制御盤が使用される。

 また、大規模災害時や停電時には、信号機が正常に作動しなくなることがある。そうした緊急事態においても、警察官がこの制御盤を使って信号を手動制御したり、点滅信号に切り替えたりすることで、混乱を最小限に抑えることができる。交通整理を行う警察官の手信号と併用することで、信号機が機能しない状況下でも交通の流れを維持することが可能となるのである。

 日常的には目立たない存在だが、この桜の代紋付きの箱は、交通の安全と円滑を守る重要な装置である。VIPの警護から災害対応まで、幅広い場面で活躍するこの制御盤は、現代の交通管理システムにおいて欠かせない存在となっている。次に信号機のそばでこの箱を見かけたら、その中に詰まった高度な交通制御技術と、それを支える警察の日々の努力に想いを馳せてみるのも面白いかもしれない。


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