新車が発表されたのに発売はだいぶ先! 最近増えている「時差」は納期遅延解消策でもあった (2/2ページ)

在庫を抱えるとリスクも大きい

 一方、日本は真逆で、受注生産販売方式が大原則だ。まず、お客から新規に注文をとったらディーラーがメーカーへ発注するという流れが基本となる。一時期は日本でも人気車を中心にディーラーが在庫車を抱えることが目立っていたが、新型コロナウイルスの感染拡大が起き、その後の半導体不足などによる世界的な新車の生産遅延が発生すると、ディーラー在庫というのは以前に比べ、限定的なものとなってきている。

 いまはディーラーが生産枠をあらかじめ抑え、その生産枠に収まれば仕様に限らずお客は発注でき、所定の納期(最近は以前よりは長めになりがち)で新車が納車されるといった、コロナ禍後に目立ってきたパターンもある。このパターンだと、あらかじめ決まっている枠から発注がこぼれると、一時的に新規受注停止となることが多く、受注再開を待って、次の枠に自分の発注を入れるというケースもあるようだ。

 発表と発売までに時間がある場合は、予約受注の様子をうかがい、最終的な生産体制を確立しようとしているように見える。ただ、某メーカーの某車では、あらかじめメーカーが「これが売れ筋!」と決めていたグレードとは異なる仕様に予約受注段階から受注が殺到し、その仕様だけが正式発売当初は年単位の納期遅延になってしまったということもあったので、あまりにも生産グレードなどを絞り込むと、そういったリスクも高くなる。

 なので、生産規模を決め、それをベースに各ディーラーへ配車枠を設定し、そのなかで比較的フレキシブルに注文を取るという流れが一般化しようとしている。しかし、極端に販売台数が見込める人気車、とくに軽自動車あたりでは引き続き、人気仕様が先行生産しているメーカーもあるようで、メーカーによって対応が異なるケースもある。

 一方で、先のeビターラは2026年1月正式発売なので、発表から4カ月ほど間があるのは異例のように見える。ただ、このクルマはインド生産となるBEVなので、日本への出荷計画を最終的に詰めるために、時間をかけているように見える。

 コロナ禍、そして半導体の世界的な供給不足などで、それまではディーラーには溢れんばかりに在庫車があったアメリカでも、一気に店頭から在庫が消えた。欲しくても買えない(お客)、売りたくても売れない(セールスマン)と、販売現場はかなり混乱したのだが、ディーラーの経営陣は多数の在庫を抱えるコスト負担から解放され、メーカーから出荷されてきた新車が右から左へ流れるように効率的に売れていく様子を見て、「これはいい売り方だ」だと思った人も多かったようだ(いまは多数の在庫を抱えているメーカーが多いようだ)。

 日本でもコロナ禍前に大量の在庫をディーラーが抱えていたことがあった。アメリカほどではないものの、在庫負担から解放された日本のディーラー経営者のなかにも、この傾向を歓迎する声が多かったと聞いている。

 すでに新車を売っているだけでは食べていけないといわれて久しいなか、頼りにしていたメンテナンスや物販でも物価高や人件費高騰で満足に利益が期待できなくなった。いまや新車ディーラーとはいえ、価格が上昇傾向にもある中古車販売に依存しているのが現状である。

 もちろんSDGs(持続可能な開発目標)などの観点でも、過剰生産を控えるという重要性もあるのだが、人件費高騰、諸物価高騰に歯止めがきかないなかでは、より効率的で最適な新車の生産及び販売体制維持のためにも、発表と発売に時差が生じることが多くなっていく可能性が高い。

 働き方改革もあり、直接的なものだけではなく、さまざまな関連業種についてもそこで働くひとの労働時間は限られてきている。さまざまな限られた条件下で、最適な出荷及び販売体制を維持しようとした結果が、いまの販売体制に繋がっていると考えられる。


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小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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