新技術による代替手段の活用でより低コストな交通制御が可能に
<信号機に代わる新しい交通制御>
信号機の撤去が進むもうひとつの背景としては、代替手段の進化もある。不要と判断された信号機を外す場合、ただ撤去するだけではなく、たとえば、一時停止標識にLEDを搭載したものや反射材を強化した大型標識、道路のカラー舗装によって視認性を高める対策が全国各地で採用されており、信号を撤去した交差点でも代替手段が機能しているとの報告がある。
これらの施策により、従来は一灯点滅式信号機が必要だった場所でも、より低コストで効果的な交通制御が可能になっている。このように、運転者や歩行者に対して注意を喚起し、交通ルールの遵守を促す仕組みに切り替えている。
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さらに注目されているのが、ラウンドアバウト(環状交差点)の導入だ。これはヨーロッパを発祥とする交差点形式で、中心の「中央島」のまわりにある円形の道路を時計まわりに通行するもの。信号機を必要とせず、随時進入と離脱が可能である。ラウンドアバウトの導入により従来型交差点に比べて事故発生率が大幅に減少したとの指摘があり、平均で約6割減、なかには最大で8割減という報告もある。
信号待ちがないため交通の流れがスムースになり、またアイドリング時間の減少によってCO2削減効果も指摘されている。また、停電時でも機能するため災害時の対応力も高い。2022年3月末時点で日本国内には126カ所のラウンドアバウトが設置されており、今後さらなる普及が期待されている。
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<持続可能な交通環境への転換>
信号機の撤去は、単なるコスト削減策というだけではない。警察当局は「クルマや歩行者の道路利用状況、交通情勢をよく分析し慎重に判断して、必要性が低下している信号機であれば廃止する」という方針を示しており、一律に全部を変えるわけではないことを強調している。
他方で、撤去には生活者の不安や合意形成という社会的課題が伴い、必要な場所は更新・改良を、不要な場所は代替策で合理化するという「選択と集中」の丁寧な運用が求められている。
限られた予算を交通量データや地域の道路利用実態などをもとに、信号が必要な地点を見直し、撤去・更新・代替策導入のいずれかを選択して振りわける。そのことで、より効果的な交通安全対策が可能となる。
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老朽化した信号機を放置すれば倒壊の危険があり、かえって危険を招く。だからこそこのタイミングで、交通安全対策として信号機を含む全体のシステムを実態にあわせたかたちで更新していくことが必要だ。単に信号機を減らすのではなく、交通実態に応じた撤去と代替設計が適切に行われるかどうかが安全性の鍵なのである。そのためのデータと現場検証に基づく再配置が、いま全国で加速している。
目指すべきは、将来の世代に安全かつ効率的な交通環境を引き継ぐこと。現状、信号配置の最適化と新技術の導入を通じて、持続可能な交通規制体制への転換を図っている。