この記事をまとめると
■いま運転士不足により路線バスは減便や廃止が相次いでいる
■運転士不足の対策として神奈川県川崎市は自動運転バスを走らせる実証実験を行っている
■実際に自動運転運行されている路線バスに乗った
川崎市の自動運転バスに乗ってみた
2024年以降、各地で路線バスの廃止・縮小・減便などが相次いで発生している。路線バスは公共性が高いため、赤字路線でも安易に廃止できないなどといったことがあるので、安定した収益を確保するのが難しい。ゆえに、賃金などの労働環境が他業種に比べてよいとはいえず、運転士の確保には四苦八苦している。そこに、残業時間の上限規制が実施されたために、深刻な運転士不足に陥ってしまったのだ。
その対策の一環として、各地で自動運転の実現に向けた実験が盛んに行われている。政令指定都市である神奈川県川崎市でも、自動運転レベル2のバスに市民を乗せて走らせるという試みが行われた。同市では、将来的に自動運転レベル4を目指しており、今回はその実現に向けたデータ収集を目的としている。
神奈川県川崎市の自動運転バス画像はこちら
ちなみに自動運転レベル2とは、システムがアクセル・ブレーキ・ハンドルを部分的に操作し、それを運転士が補助するというもの。これに対してレベル4は、場所・天候・速度などの特定条件下で、システムが運転操作を行うという完全な自動運転を指す。数字的にはたった2段階しか変わらないが、技術の差は非常に大きいといってよい。
今回、川崎市で運行されたのは中型バスと大型バスの2種類。中型バスは、ティアフォー製電動バスの「Minibus v2.0」。定員は16名で、最高速度は35km/h。1回の充電で走れる距離は約200kmに及ぶ。大型バスは、いすゞ自動車のディーゼル車「エルガ」。定員は25名で、最高速度は40km/h。軽油を満タンにした状態からだと、約500km走ることができる。
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いずれも走行コースは同じで、京浜急行大師線大師橋駅停留所からキングスカイフロント・多摩川スカイブリッジを経て、同空港線天空橋駅停留所に至るルート(中型バスは片道運行で、途中ふたつの停留所で乗降可。大型バスは往復の回遊ルートで、途中停車はなし)。バスには自動運転用の装置が積まれているために、通常よりも定員が少なくなっている。
自動運転時の走り出しは、たいへんゆっくりなので安心感がある。大通りに出るときや複雑な障害物を避けるときなどは一時的に手動運転になるが、その切り替えは表示などを注視していなければ気づくことはないほどスムースだ。駐車車両を避けるときは、センサーが対向車を確認して進む。その際、確認と同時にブレーキがかかるのでやや強く感じることもあった。信号が変わったときや右折待ちからの走り出しもゆっくりなので、先行車両との車間距離は開きがちだ。
神奈川県川崎市の自動運転バスの車内モニター画像はこちら
手動運転の際にはアクセル操作にメリハリがあるため、自動運転のときより早く進んでいるように感じる。ハンドル操作は自動・手動のいずれも丁寧なのだが、細い道路の通行やすれ違いでは手動の方が車両感覚に長けているようだ。両車両ともベースが路線バスなのでカートタイプのような振動はなく、長時間の乗車に耐え得る乗り心地である。
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多摩川スカイブリッジは中央に向けて上り坂になっており、そこを過ぎると今度は下り坂になる。そのため、先の信号で停車列があると最後尾を発見しにくい可能性があるのだ。センサーは運転士の目線より高い位置からも探知しているが、場合によってはやや強めのブレーキが必要になる。こういうときにベテランの運転士なら、経験則で「かも知れない運転」をするからスムースに停止ができる。このあたりはAIの領域になるのであろうが、自動運転システムがベテラン運転士の域に達するには、もうしばらくかかりそうだ。