この記事をまとめると
■東京のタクシーはかなりの確率でJPN TAXIに切り替わっている
■一方で地方ではそれほどJPN TAXIを見かけることがない
■JPN TAXIが全国で広まらなかったのにはふたつの理由があった
地方では見かけないのがJPN TAXI
東京では当たり前のように見かけるのに、地方に行くとほとんど目にしない。そんな車種のひとつにトヨタのタクシー専用車JPN TAXI(ジャパンタクシー)がある。代わりに地方でよく見るのは、JPN TAXIとプラットフォームを共有するコンパクトミニバンのシエンタだったりする。
トヨタJPN TAXIのフロントスタイリング画像はこちら
理由はいくつか考えられる。まずは価格が高いこと。この原稿を書いている12月上旬現在で、JPN TAXIは345万5100円からとなっている。JPN TAXIはハイブリッド2WDの5人乗りなので、同じスペックのシエンタを調べると、243万9800円からとなる。100万円の差は大きいと、多くの人が思うだろう。
しかも、JPN TAXIの燃料はLPGなのでスタンドが少ない。2022年現在で約1200カ所とのことで、ガソリンスタンドの20分の1以下だ。東京都内の大手タクシー会社は営業所にスタンドを用意したりしているが、数台レベルというところもある地方のタクシー会社にとっては無理な相談だろう。
さらに、当初はウリのひとつであったはずの車いす対応も、車いす利用者からは「乗車拒否された」、運転手からは「対応に時間が掛かる」と、双方から不満が寄せられていた。
トヨタJPN TAXIの車いす用スロープ画像はこちら
トヨタはすぐに改良に取り掛かり、2年後、以前は10〜15分かかった乗車時間を、スロープ設置から乗り込み完了まで3分で終えることができる仕様に進化させた。でもデビュー直後に導入を考えていたタクシー会社は、前述のような一報を見て躊躇したかもしれないし、改良版も畳んであるスロープを後席の下から出して広げ、設置するという作業は大変だと感じる人もいるだろう。
JPN TAXIに先駆けて国土交通省のUD(ユニバーサル・デザイン)タクシーに認定された日産NV200バネットやシエンタの福祉車両は、いずれも車いすはリヤゲートからアクセスする方式で、スロープはゲート裏に立ててある。
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僕は「日本福祉のまちづくり学会」という組織に10年以上所属しているので、車いす利用者とのつながりも多いが、荷物扱いされていると危惧しがちなリヤからの乗り降りを、使いやすく慣れているからと支持する人もいる。
また、JPN TAXIが参考にしたかもしれないロンドンタクシーは、最新型ではスロープをフロア下から引き出す方式で簡単だし、車体が大柄なこともあり、前後シートを調整しなくても車いすの乗り込みが可能だ。JPN TAXIの全長は4.4mで、小型タクシーの上限である4.6mまで余裕がある。全長にはもう少し余裕があっても良かったのではないだろうか。
ロンドンタクシーのフロントスタイリング画像はこちら
パワーユニットも一般的なガソリンハイブリッドがあれば、地方で使いやすそうだし、LPGタンクがないので荷室は広くなる。個人ユーザーにも売れるようになるだろう。そうすればコストダウンにつながる可能性もある。
もちろん現状でも、ひと目でタクシーとわかる形、乗り降りのしやすさ、後席の広さは満足できると、たまに利用するたびに思う。でもそれは東京人としての意見。タクシー需要は東京が多いかもしれないが、タクシーが重要なのは間違いなく地方だ。公共交通が貧弱なのだから。デビューから8年が経過したJPN TAXI、次期型は地方の移動を支える存在にもなってほしいと思っている。