「荷物は文句言わないから……」 路線バスからトラックへと転身したドライバーが語る「バス運転士」のリアル

この記事をまとめると

■元路線バス運転士に当時の苦労を聞いた

■最大の負担は運転そのものよりも乗客からの理不尽なクレーム対応にある

■一般車の危険な追い越しや深夜帯の酔客対応も精神的負荷を高めている

安全第一の裏側にある苦労

 大きなボディに何十人もの乗客を乗せて走る路線バス。安全運転はもちろんだが、その仕事に就いてみないとわからない苦労もいろいろとあるようだ。そこで今回は路線バスの運転手を経て、現在は物流倉庫でルートドライバーをしている方に話を聞いてきたのでリポートしよう。

 まず時折見かける「教習車」と書かれたバスだが、これはまさに訓練中の運転手と教官が乗っている。会社によっても違うようだが、基本的に何時間乗ったら教習が終わるというものでなく、ある程度の習熟度となったら無事に修了となるのが普通だ。この教習だが、初期段階では教官や先輩ドライバーのみを乗せて走るが、後半では教官と乗客を乗せての走行となる。

 今回お話を伺った方は教習中にルートを間違えたことが1回だけあったそうだ。さらに自分が運転するルートやバス停の名前もすべて覚える必要がある。もちろんルートはひとつではなく、5パターン程度のルートを走行することが多いとのこと。

 こうした教習を受けたあとに検定に合格すると、晴れて路線バスの運転手としてデビューできるわけだが、じつはここからが路線バス運転手の大変な部分でもある。まず、乗客を乗せて走るという責任感でプレッシャーを感じるのは当然で、勤務したてのころはどんなに疲れていても寝られないことも珍しくないという。

 とはいえ、こうしたプレッシャーは慣れと同時に減っていくが、それよりもストレスになるのは乗客からの理不尽なクレームだという。たとえば帽子の被り方が悪いとか、ブレーキの掛け方が急だと文句をいわれることもあるのだ。さらバス停で待っている客が乗ってくるなり「停まる位置が悪いからまっすぐバスに乗れなかった」と怒鳴ることもあるそう。それなら決められた場所にバスを停車させればいいじゃないかと思うだろうが、そういうときはバス停内に路上駐車のクルマが停まっていたりと、運転手のせいではないことが多い。

 また深夜の運行もストレスが溜まる時間帯だという。最終バスともなれば深夜12時近くまで運行しているので、週末には酔っ払いも乗ってくる。酒の勢いか絡んでくる、騒ぐ、寝てしまって終点でも起きないなどがあり、これも運転手にとってはストレスでしかない。

 さらに路線バスの運転手がもっとも気にするのが一般乗用車の「まくり」だ。これはバス停ごとに停車するバスを一般車が急に追い抜いていくことを指すが、このまくりが日常的に行われるため、路線バスの運転手はサイドミラーを見る回数が多くなる。確認する割合でいえば、前方よりも多いのではないか? というくらいの頻度なのだとか。

 スピードが出せず、停車と発進が多いバスの後ろでイライラする気もちもわかるが、バスの運転を邪魔するようなまくりはくれぐれも慎んでもらいたい。話を聞くとなかなかハードな路線バスの仕事だが、なぜバスの運転手になろうとしたのかを聞いて見たところ、予想外の答えが返ってきた。

 今回お話を聞いた方の志望動機は「楽そうな仕事だと思ったから」だそうだ。しかし、実際に勤務してみると、緊張感やストレスもさることながら、乗客からの理不尽なクレームには耐えがたいものがあったようだ。その結果、数年でバス運転手からトラックドライバーへ転身することになるのだが、印象に残るひとことでインタビューを締めくくってくれた。「荷物は文句いわないですからね。」納得である。


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