この記事をまとめると
■移動図書館車は1950年ごろに誕生し図書館利用が困難な地域を支えてきた
■需要は減少傾向にあるが地方や島嶼部ではいまも来訪を楽しみに待つ人がいる
■兵庫県や海外支援など新たな活用法によって役割は更新されつつある
本と人をつなぐ「走る本棚」
活字離れが叫ばれるようになって久しく、出版業界では紙媒体の衰退が著しい。人々はスマホを片手に、ウェブから情報を得る時代になっている。とはいえ、いまでも学校の教科書には紙の本が使用されており、若者が本とまったく触れ合わなくなったわけではない。本を手にする人は相当数存在する。減少傾向にあるとはいっても、当面は本が完全にウェブに置き換わるということはないだろう。
本を読むときには書店や通販で購入するのが一般的だが、図書館で借りるという方法もある。図書館には多くの蔵書があり、誰もがそれを借り出すことができる。ただ、図書館の所在地は、人が多く集まる都市部がほとんどであるため、島嶼部や地方において利用するのは簡単ではない。
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そこで、そういった地域に住む人たちや図書館に足を運べない人たちを対象に、蔵書を車両に載せて対象地域を巡回をしながら、貸し出しなどのサービスを行う仕組みが1950年ごろから構築された。これが、我が国の移動図書館車のはじまりである。大半は公立図書館が運営しており、所有する蔵書から選定した本を車両に搭載している。
当初は巡回コースに設けられた拠点に本を預け、利用者はそこから借り出す方式であったという。のちに、車両に搭載したまま閲覧・貸し出しなどをするものが登場し、それが主流になっていった。車両には本を多く積むため、トラックやマイクロバスをベースにしたものが多い。本棚が車内に配置されていて、利用者は乗り込んで本を探す。なかには外壁を開けると本棚が現れるような仕組みをもつ車両もある。
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公立の図書館は営利事業ではないため、運営費用は自治体の予算によるところが大きい。移動図書館車も同様なので、需要があることが存続のポイントになる。昭和のころと比較すれば、残念ながら需要が減少しているものの、いまでも島嶼部や地方では来訪が一種のイベントになっており、楽しみに待つ人も少なくない。
民間事業者が参入した例も皆無ではないが、先述のように営利を目的とはしないので、単独の事業としては成立しにくい。ゆえに、営利事業ではなくCSR(企業の社会的責任)の一環として参画するのが一般的だ。この場合、サービスの対象を児童福祉施設など明確に絞り込むために、社会福祉活動の色合いが強くなる。
2025年に兵庫県が民間事業者と組んで走らせた移動図書館車「キッカケ文庫」は、若者の「学び・子育て・住まい・働き」を分野横断的に支援する、「若者・Z世代応援パッケージ」の広報事業の一環として実施されたものである。兵庫県ゆかりの著名人約50人が、「人生が動き出すきっかけとなった本」を選び、それを搭載して2026年3月までに県内10カ所を巡回するという計画だ。利用者が、「本の試食」ともいえる新たな体験をできることに特徴がある。
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一方、各地で活躍してその役割を終えた移動図書館車を、南アフリカに送っているNPOもある。2009年からすでに50台余りが同国に渡り、現地の子どもたちの学びをサポートしているのだ。
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このように、海外ではまだ需要のある国も少なくなく、国内でも兵庫県のように新たな利用法が模索されている。移動図書館車に活躍の場が広がることを、大いに期待したいものだ。