イメージ的にも合致する飛行機のプロペラ説をマーケティングに利用
以上がBMWのロゴに関する正史なわけだが、それではなぜ、いつごろから、「BMWのロゴ=回転するプロペラを図案化したもの」という通説が登場したのだろうか?
発端となったのは、1929年に出稿された広告だった。回転するプロペラのなかにBMWロゴが入った航空機が描かれたその広告は、世界的な経済危機が始まるなか、米国Pratt & Whitney社の航空機エンジンをBMWがライセンス生産したことを訴求する内容の広告だった。回転するプロペラの中にBMWのロゴが描かれているその図版は、BMWのイメージに見事にマッチした。航空機エンジン製造という会社のルーツと、専門技術の高さを強調することに成功したのだ。
1929年のBMWの広告画像はこちら
そして、1929年のこの広告以降、「BMWのロゴは回転するプロペラを表している」という通説が生まれてしまったわけだが、BMWは、その間違った通説を正そうとはしなかった。それどころか1942年には、「BMW Flugmotoren-Nachrichten(BMW航空機エンジンニュース)」という自社の出版物に、「BMWのロゴは回転するプロペラである」ということを裏付ける記事まで掲載した。
「なんかこういい感じの通説だからわざわざ訂正しないで、そのまま乗っかっちゃおうか!」と、当時のBMW社の経営陣が考えたのかどうかは不明だが、いずれにせよBMWは、「プロペラ説」を2020年ごろまで、積極的には正そうとしてこなかった。
2020年のBMWのロゴマーク画像はこちら
世のなか、基本的には何事も「真実」を明らかにするべきではあるのだろうが、真実を明らかにすることがそのまま人の幸せにつながるわけでもない。「知らぬが仏」ではないが、知らないままでいたほうが幸せなことも世の中にはたくさんあるものだ。
だが今回、私は知ってしまった。あのロゴは「回転する航空機のプロペラ」という美しい事象を模式化したものではなかった──ということを。
大変残念ではあるが、知ってしまった事柄をいまさら脳の海馬から消去することもできない(※老人になってボケたら忘れるかもしれないが)。それゆえ今後は、行ったこともないバイエルン州の美しい田園風景を脳裏に浮かべながら、国道を走るBMW車のロゴを心静かに眺めたいと思う。