速いだけでなく曲がる・止まるも驚異的
続いてダイナミックエリアでゼロ発進加速を試す。
ノーマルモードでもアクセルを深く踏み込んだ瞬間、全身がシートバックへ叩き付けられる。加速というより衝撃だ。頭部はヘッドレストへ押し戻され、視界は一瞬にして狭まる。わずかな距離で100km/hを超え、ブレーキングポイントへ到達してしまう。しかし、恐ろしいのは加速だけではない。ブレーキペダルを強く踏み込むと最大600kWの回生ブレーキとフロント480mm径・10ピストンブレーキシステムが連携し、2.6トンという質量を感じさせない減速度で停止する。
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回生ブレーキ特有の違和感もほとんどない。ハンドリング路での制動力の立ち上がりは極めて自然で、最後までリニアに減速していく。この完成度はポルシェらしいブレーキフィールそのものだった。
ドライブモードをスポーツプラスへ切り替えると車高はさらに低く構えシャシー全体が戦闘態勢へ移行する。左足でブレーキを強く踏み込みアクセルペダルを床まで踏み切る。メーターパネルには「Launch Control」の表示が現れ、スタンバイ完了を知らせる。
ブレーキを離した瞬間だった。それまで体験したどの市販車とも異なる世界が始まる。車体はホイールスピンひとつ見せず、4輪が路面へ吸い付くように発進する。850kW(1156馬力)、1500Nmという膨大な出力が一気に解き放たれる。タイヤが空転することも姿勢が乱れることもない。ただ一直線に路面を蹴り出し、猛烈な勢いで景色を後方へ押し流していく。
0-100km/h加速は2.5秒。この数字だけでも十分衝撃的だが、実際に体感すると数字以上のインパクトがある。背中はシートへ押し込まれ、両腕はステアリングから引き離されそうになる。頭部には強烈な加速Gが加わり一瞬視界が狭くなるほどだ。
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これまで数多くのレーシングカーやスーパーカーを操ってきたが、この加速感は別次元だった。エンジン回転の立ち上がりを待つ必要はなく、アクセル操作と同時に最大トルクが立ち上がるEVならの特性が人間の感覚を置き去りにしてしまう。
ローンチコントロールではブレーキングポイントまでの到達速度も大きく伸びる。ノーマルモードでは約110km/h前後だった速度が、スポーツプラスでは120km/hを大きく超えていた。わずか数百メートルの加速でも、鋭さがまったく異なることを物語っている。
その速度域からフルブレーキングを行っても、車体は安定したまま停止する。最大600kWの回生ブレーキと480mm径・10ピストンブレーキシステムは、2.6トンという重量を完全に忘れさせる制動力を発揮した。ただ、何度も繰り返すのは体幹的に無理。多くの人がジェット戦闘機に乗ったように一回で脳酔いしてしまうはずだ。
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続いてスラロームへ移る。標準装備されるリヤアクスルステアリングは40〜60km/h以下で逆位相、80km/h以上では同位相へ切り替わる。今回のスラローム速度域はちょうど切り替え付近だったこともあり、前半は軽快にノーズが向きを変える一方、速度が乗る後半ではフロントタイヤが限界へ近づき、アンダーステア傾向を示した。もっとも、それは限界域で積極的に攻め込んだ結果であり、公道ではまず経験しない領域である。
一方、アクセルを踏み込んでいくと最初は後輪モーターが積極的に駆動を受け持ち車体にヨーを発生させる。状況によってはわずかにテールが向きを変え、後輪主体で旋回姿勢を整えていく制御も感じられた。単にパワーを前後へ配分するだけではなく、ドライバーのステアリング操作へ自然に応える四輪駆動制御が組み込まれていることが分かった。
カイエン ターボ エレクトリックは、SUVでありながらスポーツカーの俊敏さを実現した。しかもWLTPで600kmを超える航続距離を確保し、日常での実用性も高い。電動化によって性能と使い勝手を高い次元で両立させた完成度は、ポルシェらしい技術力の結晶といえる。
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しかし、その一方で考えさせられる部分もあった。この性能を一般道で使い切れる場面は、日本ではほぼ存在しない。アクセルを深く踏み込めば一瞬で法定速度を超えてしまう。誰でも簡単に0-100km/h加速2.5秒という加速性能を引き出せてしまうことは、技術的には称賛に値するが、安全という観点では慎重に向き合う必要もあるだろう。
だからこそ、このクルマの真価はポルシェ・エクスペリエンスセンター東京のような環境で体験してほしい。限界性能を一度知れば、公道で無理をする気もちは自然と消えるはずだ。
電動化は、これまで不可能だった性能を現実のものにした。しかし、性能競争に終わりが見えないこともまた事実である。カイエンターボ・エレクトリックは、ポルシェ史上最高レベルの動力性能を実現したSUVだ。その圧倒的な完成度に感心すると同時に「これほどの動力性能が本当に必要なのか」という問いを投げかける1台でもあった。それこそが、このクルマがもっとも印象深く残したメッセージだった。
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