コンバートEVで実感した電気自動車の可能性
大手自動車メーカーがBEVを手がける以前から、ガソリンエンジンに代え、電動モーターを搭載して旧車を走らせる”コンバートEV”なるものが存在していた。ボク自身も古いフォルクスワーゲン・ビートルに工業用の電動モーターを取り付け、リチウムイオンバッテリーで走らせるコンバートEVビートルを試作した。
EVにコンバートされたフォルクスワーゲン・ビートル画像はこちら
ベースの空冷ガソリンエンジン仕様で110km/h程度だった最高速は、BEV化で160km/hを余裕で引き出すことができ、しかも静かで快適だったことから電動化の可能性を実感していたものだ。
このコンバートEVビートルではノーマルのトランスミッションをそのまま流用していた。3ペダルの4速MTだったのだが、1〜4速のどのギヤでも2ペダルとして発進も巡航も可能だった。使用したモーターが工業用で回転数は3000rpm前後の一定型だったため、トランスミッションで速度変化を可能にする狙いだった。
フォルクスワーゲン・ビートルのスティックシフト画像はこちら
この手法を使えばトランスミッションやクラッチなどに内燃機関搭載車の部品を流用することができ、サプライチェーンの保護にも繋がる。モーターにも超高回転化など過剰な要求をしなければコンパクトにできる。現在、大半のBEVはモーターと車軸が直結で、最高速を高めるためにモーターを1万5000rpm以上の高回転でまわす必要があり、発熱や制御などの問題も多く引き起こし、バッテリー同様に解決できていない。
もっとも現実的で高効率な内燃機+電気モーター
いまだに解決できないバッテリー性能と、充放電インフラ問題を避けて電動化する技術としてHEV(ハイブリッド)がある。
ガソリンエンジンに発電用ジェネレータモーターを組み合わせて発電し、その電力で駆動用モーターを稼働させる。これに小さなバッテリーを備えれば、必要な場面でEV走行が可能となり、地域の環境性能を高めることができる。
トヨタ・プリウスのハイブリッドシステム画像はこちら
バッテリー容量を拡大し、長距離のEV走行を可能にし、外部充電も可能としているのがPHEV(プラグインハイブリッド)だ。モーター駆動とすることで、発進加速や加減速などドライバビリティに優れ、扱いやすい。摩擦クラッチやトルクコンバーターを持たないので効率に優れ、燃費をよくすることで、結果として二酸化炭素排出量を低減できる。ガソリンエンジンを搭載するため電欠の心配がなく、工場の生産ラインやサプライチェーンも活用できるので自動車メーカーにとって利点が多い。
現時点ではBEVよりHEVのほうが結果として温暖化抑制にも寄与できていることから見直され、「BEVこそが正義」といった偏向的な風潮は是正されつつある。
トヨタ・プリウスの走行画像はこちら
ガソリンエンジンの不得意な発進時の低速トルクやクラッチ制御をモーターが担い、高速巡航などは高効率なガソリンエンジンが受け持つことで走行シーンへの柔軟性が高い。電動モーターの駆動トルクは電気的に制御しやすく、雪道や坂道発進なども難なくこなす。
トヨタの初代プリウスが登場した1997年。燃費は大きく改善され、走りにも納得できた。地球温暖化に対して自動車の果たす役割としては十分以上だと感心させられた。あとはほかの産業や政策で解決すべきだろう、と。
トヨタ・プリウスのフロントスタイリング画像はこちら
環境負荷のない新燃料も今後の選択肢のひとつ
BEV偏向主義で世界中の自動車メーカーは大きな遠まわりを強いられていたと思う。そして、それは現在も続いている。
中谷塾では自動車に押し付けられた地球温暖化要因に懐疑的だ。いくらHEVで燃費を向上させ、排出量を低減させても、たとえば戦争で戦車がアクセルひと踏みすれば元も子もなくなってしまう。無駄な投資をして見せかけの環境への取り組みを示すより、戦争をやめさせるほうが人類にとって有益なのは明らかだ。
内燃機関は化石燃料だけでなく、環境負荷のかからない新燃料や水素、エタノールなどさまざまな燃料で稼働させることができる。バッテリーの改革が先か、それとも新燃料の普及が先か……BEV対HEVの開発競争はいまもまだ続いている。
講師 中谷明彦
レーシングドライバーの中谷明彦さん画像はこちら
武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒。国内では全日本F3000/ツーリングカー選手権などで優勝、ル・マン24時間などの海外レースにも多数参戦。経験豊富なレーシングドライバーであり、理論派モータージャーナリスト。1989年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員に就任し、1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開講。
※本記事は雑誌「CARトップ2025年4月号」の記事を再構成して掲載しています