クルマというよりタイヤの付いた翼! 航空機エンジニアが作ったルノーのレーシングカー「リファール」の独特すぎる姿

この記事をまとめると

■ルノー4CVをベースとしたレーシングカー「リファール」が存在した

■翼断面のようなボディに戦闘機風コクピットが特徴で「タンク」と呼ばれた

■その魂は現代のクーペSUV「ルノー・ラファール」に継承されている

大衆車生まれの奇抜なレーシングカー

 ルノー4CVというと、ルノーにとって第2次世界大戦後初のニューモデル、かつ初のリヤエンジンであり、アルピーヌが生まれるきっかけを作った一方で、日野自動車によってノックダウン生産されるなど、いろいろな意味で話題豊富な大衆車だった。

 アルピーヌ以外にも、さまざまなスポーツカーやレーシングカーがこの4CVをベースとして生まれた。そのなかでも変わり種といえるのがリファールではないだろうか。なにしろニックネームが「タンク」だったのだから。

 設計したのは、1888年生まれの空力エンジニア、マルセル・リファール(Marcel Riffard)。もともと航空畑の人で、いくつかの飛行機会社を渡り歩き、1930年代にはルノー傘下のルノー・コードロンに籍を置いていた。

 これがきっかけになってクルマのルノーのデザインにもかかわるようになり、スポーティモデルのほか速度記録車の設計も担当した。その流れで戦後、自分の名を冠したレーシングカーの開発を行ったようだ。

 なんといっても目を引くのは、飛行機の翼の断面そのままといえるプロポーションで、ルノーのオフィシャルサイトでは「A WING ON WHEELS」というキャッチコピーが付けられているほど。

 コクピットも飛行機風で、運転席は戦闘機の風防を思わせるスクリーンで囲まれ、背後には整流のためのフェアリングを装備し、助手席側はパネルで覆われていた。ボディはアルミ製で、車両重量はわずか450kgに抑えられていたという。

 興味深いのは、4CVのそれをベースとした904ccの直列4気筒OHVエンジンがリヤではなくフロントに積まれていたこと。具体的には4CVのひとクラス上の車種だった、戦前生まれのジュヴァキャトルのコンポーネンツを活用したという。

 それまでのルノーは、リファールが関わったモデルを含めてすべてFRだったので、それを踏襲したのかもしれない。

 このモデルは、1952年から翌年にかけて、ゲパールの名前で2台が製作されてレースに出場したあと、1956年にルノー・リファールと名を変えて、速度記録に挑んだ。

 同じ時期にリファールは、オートブルーやモノポールというスペシャリストが製作したレーシングカーの設計にもかかわっている。前者は4CVのコンポーネンツをリヤエンジンのまま用い、後者は4CVと同じ年にデビューしたアルミボディ前輪駆動の前衛的な大衆車パナール・ディナをベースとしていた。

 フォルムはどれも飛行機作りの経験を生かした翼型だったが、メカニズムはFR、RR、FFとすべて違っていたことになる。最速の方法論がひとつに絞られていなかった、よき時代ならではのエピソードだ。

 記録に残っているリファールの活動はこのあたりまでだが、戦前にルノー・コードロンで手がけた飛行機に与えられたラファール(Rafale/疾風を意味するフランス語)という名前は、1980年代にダッソーが設計した戦闘機に引き継がれたのち、2023年にルノーが発表した最上級のクーペSUVの車名として復活した。

 このラファールが発表された場はモーターショーではなく、パリ航空ショーだった。ルノーやフランスが、マルセル・リファールというエンジニアに敬意を抱き続けている証拠だろう。


この記事の画像ギャラリー

森口将之 MORIGUCHI MASAYUKI

愛車
2023ルノー・トゥインゴ/2002ルノー・アヴァンタイム
趣味
ネコ、モーターサイクル、ブリコラージュ、まちあるき
好きな有名人
ビートたけし

新着情報