最新技術をレースフィールドで鍛えたルノー

 2月8日の記事で紹介したルノーのターボエンジンは、まさしくモータースポーツ直系」として紹介したコラムを、今回はもう少し深く掘り下げて紹介して行こう。

ターボチャージャーをグループ5のレーシングスポーツカーで開発し、目標だったル・マン24時間制覇を果たすと、次なる戦いの場としてF1GPを選んでいる。ここで当時F1GPでのベンチマークだったDFVを相手に技術を磨き、参戦3シーズン目には初優勝を飾っている。

 もちろんその技術を生産車にもフィードバックしているが、ルノー5をベースに開発された5ターボはグループB仕様でWRCに参戦、さらに技術が磨かれている。また89年にはホンダとともにV10エンジンをF1GPに初投入。さらにバネを使わず空気で圧搾するニューマチックバルブを開発採用するなど史上最強の呼び声高いV10でF1GPの新たなベンチマークを創ることになった。

ターボエンジン技術はレーシングスポーツカーで開発
Alpine-Renault A442B/A441
ルノーのモータースポーツを統括するルノー・スポールが設立されたのは1973年。ルノーのロードモデルをベースに市販スポーツカーやレーシングカーを製作していたアルピーヌを買収、系列子会社として再出発させたのだ。そのルノー・スポールの最初の大きな仕事がグループ5のレーシングスポーツカー、A440の開発だった。300番台はF2やF3のシングルシーターで、A440はA220の後継モデルだが、クローズドボディからオープンシーターに変更され、エンジンも3リッターV8から2リッターV6にコンバートされていた。そのV6エンジンにターボを組み込んだモデルがA442。ph0102_1978_Renault_Alpine_A442_n3_IMG_3518_Rル・マンに初御目見えとなった76年にいきなりポールを奪い、さらに2年後には念願だったル・マン初制覇を成し遂げている。ブルーのボディの#26号車は75年仕様でNAを搭載したA441。ルノー・カラーのマスタード・イエローに塗られた#3号車は78年ル・マンに参戦したA442Aだが、ルーフの整流カバーは同年のウィナー、A442Bに装着されていたノンオリジナル。A441は2015年のレトロ・モビルで撮影。A442Aはミュルーズのフランス国立自動車博物館、通称「シュルンプ・コレクション」で、こちらは2010年に撮影。

ph0101_1975_Alpine-Renault A441C_IMG_0714_R耐久レースで磨いたターボ技術の闘いの場をF1の舞台へ移す
Renault Formula 1 RS10/RE40
ル・マン24時間レースを初制覇した1978年限りでルノー・スポールはスポーツカーレースから撤退。79年からはF1GPに専念することになった。実戦デビューは、スポーツカーレースと並行して進められていた77年のイギリスGP。ph0201_1979_Renault RS10_IMG_4908_RマシンのRS01は、アルミ製のツインチューブ・モノコックに1.5リッターまで排気量ダウンしたV6エンジンを搭載していた。F1GPにおいて、スーパーチャージャーを使った過給エンジンはかつて存在していたが、ターボによる過給エンジンはこれが初。熟成に手間取ったものの2年目に初入賞、3シーズン目にはポールを奪うまでになった。その79年の中盤にデビューした後継マシンがRS10。ph0202_1979_Renault RS10_IMG_4915_Rデビュー4戦目となるシリーズ第8戦、凱旋レースとなるフランスGPで初優勝を飾っている。これはルノーにとってだけでなく、ターボエンジンにとっても記念すべき初優勝だった。80年のRE20、81年中盤からのRE30を経て83年にデビューしたRE40では、ルノーF1として初のカーボンモノコックを採用している。ph0203_1983_Renault RE40_IMG_5158_RU字型のウィングステーが特徴的なリアビューを持つ#16の79年仕様RS10はルノ・コレクションの車両で、モデナのエンツォ・フェラーリ博物館で2013年暮れの企画展で撮影。#15の83年仕様RE40はパリ市内にある国立工芸院付属パリ工芸技術博物館にて12年に撮影。

 1989 Williams FW12C-Renault RS1

ph0401_1989_Williams FW12・Renault RS1_IMG_2179_R

 1989年シーズン用のウィリアムズFW12C・ルノーRS1を手掛けたのエンリケ・スカラブローニ(チーフデザイナー)とパトリック・ヘッド(テクニカルディレクター)。前年使用していたFW12の改変モデルでエンジンをジャッド製のCV(V8)からルノーRS1(V10)にコンバート。ルノー・エンジン用のブランニュー、FW13がデビューするまでの“つなぎ”として用意されたがFW13の開発が遅れ、第12戦のイタリアGPまで主戦マシンとして使用された。

 1995 BETTON B195・Renault?RS7ph0402_1995_Renault_Formule_1_Type_B195_Benetton_IMG_4972_R

 ベネトンB195を手掛けたのはロリー・バーン(チーフデザイナー)とロス・ブラウン(テクニカルディレクター)。1994年に使用したB194をベースに、エンジンをV8のフォードZETEC-RからV型10気筒のルノーRS7にコンバート。ディフェンディングチャンピオンのミハエル・シューマッハが9勝、ジョニー・ハーバートが2勝を挙げてシーズンを席捲。シューマッハが2年連続チャンピオンに輝き、ベネトンも初のコンストラクタータイトルを獲得している。

 ちなみにRS1は、89年にウィリアムズに搭載されてデビューを果たした3.5?V10(バンク角は67度)のルノー製F1エンジン。90年のRS2から94年のRS6まで進化した後、95年にはレギュレーションに合わせて3?に縮小されたRS7が登場。97年限りでルノーが撤退した後は97年仕様のRS7をベースにカスタマー仕様としたメカクロームGC37/01が登場している。

耐久やF1レースで鍛えたターボ技術を市販車にフィードバック
Renault 5 Turbo
1979年にRS10が、フランスGPで初優勝を飾ると、翌80年にはターボを装着した市販のロードゴーイングモデルがリリースされた。ルノー5はコンパクトクラスで傑作のひとつとされている、そのルノー5のホットモデル、ルノー5アルピーヌをベースにしたルノー5アルピーヌ・ターボだ。ph0301_1980-86_Renault 5 Turbo 2-door Hatchback_IMG_0668_R本来ベーシックなモデルでは800cc/36馬力だったものがアルピーヌでは1.4リッター/93馬力にアップされていたが、ターボ仕様ではさらに110馬力にまで引き上げられていた。しかしそこで収まらないのは世の常で、ラリーのグループBを見越してパワーユニットを180度回転させドライバーの背後に押し込んだ、MRレイアウトの2シーター、5ターボが投入された。ph0302_1983_Renault 5 Turbo“Tour de Corse”_IMG_4854_R外観では前後のオーバーフェンダーが目立つ程度だが、その中身はまさに別物。そしてグループBのWRCマシンに生まれ変わった5ターボはメジャーデビューとなった81年シーズンの開幕戦、モンテカルロ・ラリーで見事初優勝。

 ドライバーのジャン・ラニョッティは翌82年にはツール・ド・コルスでも5ターボで優勝を飾り、地元フランスでの英雄となっている。深紅の5ターボ・ロードゴーイングは2015年のレトロモビルで撮影。一方、マスタードイエローのWRCマシンはミュルーズの国立自動車博物館で撮影した83年のツール・ド・コルス仕様。

★世界最強のV10エンジン★
Renault Pneumatics Engine
F1GPにターボエンジンを持ち込んだパイオニアのルノーは、1985年シーズンを限りにコンストラクターとしての活動を休止。エンジンサプライヤーとしての活動も翌86年を限りに休止していたが、レギュレーションによってターボが禁止され、3.5リッターNA(自然吸気)に一本化されることになった89年シーズンに、エンジンサプライヤーとしてF1復帰を果たしている。WEB CARTOP用意したエンジンはV型10気筒。振動の問題から、F1GPではそれまでどこも手を出していなかったレイアウトで、より高回転化を狙うならV12が有利だったし、より軽量・コンパクトを望むならV8。これが定説だったがホンダとともにルノーはこれに挑戦したのだ。ルノーのもう一つの武器はニューマチック・バルブ(Pneumatics?Valve)。

これまでコイルスプリングに拠っていた弁の開閉に圧搾空気を使うこのシステムは、より高回転化を可能とし、結果的に最強のV10エンジンを創りだすことになった。初年度から3年間はウィリアムズに独占供給し92年以降はリジェやベネトンにも供給。

 92年から97年まで6年連続してコンストラクター・チャンピオンの原動力となった。特に95年の16勝(17戦中)はエンジンの年間最多勝記録となっている。3リッターのV10から2.4リッターのV8へとレギュレーションが変更された2006年シーズンには新開発のRS26をリリース。

その正常進化モデルも含めて2013年までの8シーズンで60勝を挙げ、5度の王座(ドライバーとコンストラクターのダブルタイトル)に輝いている。キヤノン/キャメル・カラーの#6、89年仕様のウイリアムズFW12はドイツはホッケンハイム・サーキットに併設されたモータースポーツ博物館で、マイルドセブン・カラーの#1、95年仕様のベネトンB195はフランスはミュルーズにある国立自動車博物館、通称“シュルンプ・コレクション”で撮影。V8のRS27-2010は同年のロトモビル、通称“パリ・サロン”で撮影した。


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