なぜレーシングカーは後輪駆動が多いのか?

単純に速さを考えるとリヤ駆動が有利

 皆さんはレーシングカーのルーツを知っていますか? 記録に残っている人類最初のレースは1894年のパリ-ルーアン・トライアルですから、そこに参戦したクルマたちがレーシングカーのルーツでしょうか? それはある意味では正しいかもしれませんが、現実には間違っています。レーシングカー=競争するためのクルマは、クルマが生れたと同時に誕生していたのです。なぜなら、クルマは生れたときから競争に晒されていたからです。

 牛よりも多くの荷物が積めるのか? 馬よりも速く走れるのか? どれほど遠くまで行けるのか? エンジンという動力を使った乗り物は、周囲からの大きな注目を集めながらも、旧来からの勢力との摩擦と競争が生れたわけです。もちろん、その競争がクルマを大きく進化させていく原動力だったことは間違いありません。

 つまりクルマとはレーシングが起源であり、もしかするとファミリーで和気あいあいとドライブするようなものは邪道なのかもしれません。もっといえば、モータースポーツこそクルマの本質であり、参加しない自動車メーカーは大きな問題を抱えているのかもしれません。

 そんな歴史を踏まえているので、レースとは速さと耐久性を競います。そのバランスは短距離のスプリントレースでは速さ重視、長距離の耐久レースでは耐久性重視、ということになります。そのどちらの要素に対しても、シンプルなメカニズムであることは、とても重要です。構造が複雑になるほど、一般的には耐久性が下がり、ある局面の性能も低下してしまいます。シンプルが一番なんですね。

 もっともシンプルなパワートレインは横置きエンジンなので、それを後輪の周辺に配置した構造が最適なわけです。現代風にいえばミッドシップか、あるいはリヤエンジンとなりますね。ところがエンジンがどんどん大きくなっていくと、後輪の周辺に置けなくなってしまったのです。トランスミッションの大きさもどんどん大きくなりました。それでエンジンをフロントに置いた、いわゆるFRの構造になるわけです。たとえば1950年に始まった当初のF1はFRです。

 前輪を駆動するには、等速ジョイントという部品が必要になります。普通のジョイントでは角度が付くと回転速度が変化してしまいますが、等速ジョイントの場合には基本的に変化しません。現在の前輪駆動車には例外なく等速ジョイントが採用されていて、その小型化ができなかったメーカーは前輪駆動車を生産するタイミングが遅れてしまいました。それは1970年代後半のハナシですから、それよりも前となると高性能なエンジンを搭載することができませんでした。

 つまり技術的に前輪駆動車でレースをすることは難しかったのですね。

 単純に速さだけを比較するなら、ブレーキング性能とトラクション性能に優れる後輪駆動が有利です。コーナーの進入でも、立ち上がりでも有利なわけです。だからレギュレーションに縛りがなければ、後輪駆動が選択されるのは当然の結果ですね。

 ただしレースはモータースポーツ、つまりスポーツですから道具はあまり関係ないんですね。前輪駆動車でも面白いレースは展開できます。


新着情報