急激なEV化の流れのなかトヨタ肝いりの水素戦略はどうなる?

再生可能エネルギーの利用においてFCVは重要

 世界的に電気自動車の波はますます大きくなっている。イギリス、フランス、ドイツといった欧州各国ではゼロエミッションビークル(ZEV=有害な排ガスを出さないクルマ)へのニーズを政策として高めているし、中国では電気自動車の普及を推し進めようとしている。水素

 そうした流れの背景には電気自動車の技術的な進歩もある。バッテリーの進化により、安全に長い距離を走ることのできる目処が立っているし、現時点でも十分な航続距離を実現している電気自動車も少なからずラインアップされている。

 まさに次世代のゼロエミッションビークルは電気自動車(EV)が鍵になっているといえる状況だ。そうして、もうひとつの有力なゼロエミッションビークルである燃料電池(FCV)は影が薄くなっていると感じてしまうことも少なくないだろう。実際、燃料電池車「ミライ(MIRAI)」を世界に先駆けて量産したトヨタの戦略をネガティブに捉える傾向は強まっている。

 しかし、水素を燃料として発電するFCVと電気を充電するEVは、ZEV推進においては両輪といえる。まず、ひとつFCVが有利なのは、バスやトラックといった業務用途のクルマだ。連続稼働性や燃料がエンプティになったときの補給しやすさではアドバンテージがある。

 バッテリー搭載量を増やせばEVにおいても航続距離を伸ばすことは可能であるし、そうしたアプローチを是としている面もあるが、大型車でそうした手法をとった場合、コストとの兼ね合いからFCVが有利になるといえる。実際、トヨタが日本では燃料電池バスを、アメリカでは燃料電池トラック(トレーラー)を提案しているのは、そうしたメリットを活かすためであろう。

 では、乗用車はEV、大型の商用車はFCVという住み分けになるのかといえば、そうともいえない。ここでキーワードとなるのが「再生可能エネルギー」による発電だ。

 火力などを中心とした電力供給においては需要に合わせて発電することができるが、風力や太陽光は需要に合わせることが難しい。たとえば太陽光では、昼間に発電した電気を貯めておいて夜間の照明に使うといったことになる。つまり電気を貯めておくこと、また発電量と需要のギャップを埋めるためのバッファが必要になる。

 大量のバッテリーを用意して電気のまま貯めておけばいいという意見もあるだろうが、電気のストレージとして、水を電気分解して水素にして貯めておくというのも、ひとつの方法だ。大型バッテリーやフライホイール式と比べると、水素は保存性、可搬性に優れているというメリットもある。つまり燃料電池というのは、再生可能エネルギーによる発電のバッファとして有効と考えられる。

 現時点での発電構成からするとZEVの最適解はEVに思える部分もあるだろうが、環境負荷の大きな発電方式が減り、再生可能エネルギーによる発電が主役になったときには、EVとFCVを併用することが求められることになる。そして、そうしたエネルギーミックスになるのは、それほど遠い未来ではないだろう。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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