初代の踏襲はダメ! 広いだけじゃダメ! 新型ホンダN-BOXのデザインチームが挑んだ難題 (4/4ページ)

インテリアはパパにフォーカスしたコンセプトも検討

 続いて、インテリアデザインにも目を向けてみよう。

「インテリアで目指したのは、忙しいママさんたちがN-BOXに乗ることで元気になって、毎日を活き活きと過ごせる空間です。(カラー・マテリアル・フィニッシュ担当・渋谷さん)」

「じつは開発の途中でパパにフォーカスしたコンセプトもあったんです。書斎コンセプトといったものもトライしたんですが、やはりママの使い勝手に優れたものは、誰にとっても使いやすいということで却下されました。そんなふうにさまざまな方向からアプローチを行って自分たちのコンセプトが間違いないということをしっかりと確信していったんです。(金山さん)」

 初期段階では、居心地のよさを重視した「広さMAX案」と、使い勝手がよく収納を最大限に生かす「収納MAX案」を提案。だが、広さと収納を分けて考えることはできないという理由から、ふたつの案を一元化。立体モデルによって、さらなる熟成が進められていく。

 モックアップモデルでは、さまざまなアイディアがトライされている。前後にスライドしてテーブルとしても使えるコンソールや、リラックスだけでなく後席で子どものおむつを替えるときにも便利なオットマン。ほかにも、何枚も重なっていてめくるたびに新しい柄が出てくるランチョンマットをダッシュボードのトレイに備えるなど。

「モックアップにはママさん社員にも何度も乗ってもらって意見を聞かせてもらいました。(金山さん)」

「女性の意見はパッケージにもすごく生かされています。たとえば、抱っこした子どもを後席に乗せてから、運転席に座るまでの動線ですとか。新型N-BOXでは、後席に子どもを乗せてから外に出ることなく運転席に移れるセンターウォークスルーを採用していますが、その必要性も、雨の日のママさんの苦労といった、リサーチで得られた意見によって確信できたものなんです。(パッケージ担当・柳本さん)」

 初期から中期にかけてのデザインの大きな変更点は、メーターがアウトホイールタイプになったことだが、これも、女性視点での使い勝手にこだわった結果だ。

「アウトホイールのメーターは、ガラスの角度が寝かされたミニバンだと実現しやすいんですが、インパネの距離が短いN-BOXでは、見た目の印象からも設計上の理由からも、実際にやろうとするとかなり難しいんです。設計サイドと何度も試行錯誤を重ねました。(インテリアのモデリング担当・松浦さん)」

 今回のデザイン開発で印象深いのは、あらゆることについて、自分たちが実感として理解できるまで徹底的にリサーチや検証を行っていることだ。たとえば初代の魅力を踏襲しようという方向性に関して言えば、読者のなかには、「人気モデルなんだから、よさを踏襲するなんて考えるまでもないこと」と感じる方もいるのではないだろうか。

「確かに近道しようと思えばいくらでもできたと思います。けれど、もしも近道していたら、人気モデルのカタチをただ単になぞっただけで終わっていたような気がします。ひとつひとつの魅力を実感として理解できたからこそ、そこに加える新しい魅力についても、本当に必要なものがなにかをブレずに選びとることができたのだと思います。(金山さん)」

 いいところを盲目的に受け継ぐのではなく、あらゆる可能性を試すことで、そのよさを実感として理解する。それはある意味、とてつもなく攻める姿勢と言えるだろう。実際、デザイナー本人も「N-BOXらしさを踏襲したというよりも、攻めに攻めた結果、得られた答えがN-BOXらしさだった」と語っている。

 ホンダのフィロソフィーである3現主義で徹底的に検証を重ねて作り上げた新型N-BOXのデザイン。それはまさにホンダらしさ全開のデザインと言えるだろう。


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