「今までにない小型車を作りたい」開発責任者がスズキ・クロスビーに込めた思いを直撃

ハスラーの小型車版を望む声が多数寄せられていた

 2017年12月14日に発売された新型スペーシアと並び、東京モーターショーで注目を集めていたスズキの新たな小型クロスオーバーSUV「クロスビー(XBEE)」が、12月25日に正式発表された。その誕生秘話や開発の狙いなどについて、チーフエンジニアの高橋正志(たかはしただし)さんに聞いた。

──まったく新しいモデルとしてクロスビーを投入したのはなぜでしょうか?

高橋正志(以下、高橋CE):2013年の東京モーターショーで軽クロスオーバーSUVのハスラーを参考出品し、その年の年末に正式発表いたしましたが、当時から「ハスラーの小型車版を」という声をお客さまから多くいただきました。その後徐々に声が大きくなり、営業部門から正式に要望が上がってきたというのが、開発のきっかけになります。私はハスラーのアシスタントを担当しており、「ハスラーの小型車版があるといいな」と思っていましたので、それを実現するうえで「今までにない小型車を作りたい」というところに行き着きました。

 ハスラーは丸目のフロントマスクが大きな特徴ですが、丸目の小型車は国内には少ないんです。格好良くてスタイリッシュなクルマはたくさんありますが、丸目で長く愛されるクルマにしたいという想いを込めて、開発がスタートしました。そのころから開発コンセプトは「クロスオーバーのワゴン」です。それを実現するためスタイリングと広い室内をどう両立させるかが、今回の開発でもっとも苦労したところですね。

──ハスラーの小型車版を作ろうということになったのは、やはりハスラーが大ヒットしたことが大きかったのでしょうか?

高橋CE:小型車として欲しい、という声が大きかったですね。大人5人が快適に乗れる、ということもそうですし、軽自動車では物足りない、という人たちに向けて、ハスラーをそのまま大きくすればよいとは考えませんでした。デザインは比較するとよく分かりますが、ハスラーは軽自動車規格のなかで作っていますので四角いんですね。クロスビーは小型車らしいクルマということで丸くしつつ、室内の居住性を損なわないようにしました。

 サイズを大きくすれば当然室内は広くなるのですが、4mを切るサイズは他社にもなかなかありません。しかも、室内に入ると1〜2クラス上の広さがあるのを感じていただけると思いますので、やはりスズキが出すからには、取りまわしの良いコンパクトさと、実寸以上に大きく見えるスタイリング、中に入ると広い室内、というのが、東京モーターショーでも「このサイズがいいんだよね」と来場者の方に好評でした。

 自分自身は「もう少し大きくても良かったのでは」と思っていたのですが、今クルマは少しずつサイズが大きくなっているんですね。初代エスクード(3ドア)が全長3560mm、エスクードノマド(5ドア)が3975mmなので、3760mmのクロスビーはちょうどその間なんですよ。初代エスクードも当時としてはコンパクトで、私もノマドをスズキ入社後最初に購入したのですが、ちょうどいいサイズなんですね。結果的に、使い勝手が良いサイズで、かつ当時はなかったワゴンパッケージで、エスクードノマドよりも室内は遥かに広いクルマなっています。

──同じAセグメントのクロスオーバーSUVであるイグニスと競合しないようにするため、どのように差別化したのですか?

高橋CE:イグニスはパーソナル・カップルユースをメインに考えており、キビキビと走る良さがあります。クロスビーは個性的なスタイリングで趣味性が高いという位置付けで、さらに後席にも人が乗ることを重視しています。ファミリーユースのソリオはスライドドアの実用性と使い勝手の良さがポイントですね。

  

──イグニスはキビキビ走るということですが、クロスビーの走りの方向性は?

高橋CE:街乗りではややゆったりめの乗り味になるよう作りました。また、遠出の際にロングクルージングを楽しめるよう、1リッター直噴ターボエンジンとマイルドハイブリッドを載せていますので、高速道路ではフラットで安定感が出るよう足まわりのチューニングをしてきました。ワインディングはあまり想定しておらず、そちらはイグニス、それがさらに際立つとスイフトになりますね。

──1リッター直噴ターボエンジンとマイルドハイブリッドをを初めて組み合わせましたが、その理由は?

高橋CE:クロスビーは趣味性が高いクルマ。軽自動車のハスラーとも違い、小型車のイグニスとも異なります。後席にも仲間や家族が乗り、遠くまで遊びに行ってほしいという想いで開発しましたので、そうすると人が乗って重くなる。そこで高速ロングクルージングのことを考え、1リッター直噴ターボエンジンと6速ATを搭載し、充分な余裕を持たせることにしました。

 さらにマイルドハイブリッドを組み合わせたのは、やはり遠出のうえでは低燃費なほうが航続距離の面でも良いからですね。またISGの採用によって、再始動が静かで振動が少なくなっています。

──メカニズム上のイグニスとの違いは、他にも何かありますか?

高橋CE:ビスカスカップリング式の4WDシステムは、メカニズムはイグニスと変わらないのですが、クロスビーではもう少し進化させようと考え、ESPの制御によるスノーモードとスポーツモードを実装しています。電子制御カップリングを搭載し前後駆動力配分をコントロールできるエスクードほど本格的ではありませんが、スノーモードは主にアイスバーンを想定し、発進・加速時のトルクを抑えることで、雪道に不慣れな人が少しでも安心してドライビングできるようにしました。

 スポーツモードでは、ドライビングの自由度を高めるため、トラクションコントロールの介入を少し遅くし、かつアクセル開度に対しトルクがより多く出るようトルクカーブを変更しています。

──クロスビーはロングクルージング時の快適性を重視しているとのことですが、その観点から静粛性をイグニスより高めているのでしょうか?

高橋CE:4気筒NAのイグニスに対しクロスビーは3気筒ターボエンジンを搭載しており、3気筒特有の振動が出ますので、NVHについては全部新たに開発しています。また後席に乗車することも想定し、後席の静粛性にもこだわりました。具体的には、イグニスよりも大きくなり不利になった、バックドア開口部の剛性を高めることで、後席のこもり音を低減しています。

──クロスビーがもっとも重視しているターゲットユーザーは?

高橋CE:年齢層や性別は特に考えていません。クロスビーは街乗りからアウトドアまでオシャレに、というところを目指していますので、よりアクティブなライフスタイルを求めている人、他人と違うスタイリングを求めている人を想定しています。

 男性が見て格好良いクルマはたくさんありますが、とくに女性にも愛される可愛いクルマはほとんどありません。ですので、クロスビーは女性にも広く受け入れられるのではないかと期待しています。モーターショーでも女性の反応が良く、アイボリーの車体色や、木目調のアクセントを入れた「アウトドアアドベンチャー」がとくに人気でした。

──モーターショーではさまざまなバリエーションが展開されていましたが、それらはディーラーオプションとして展開するのでしょうか?

高橋CE:まったく同じではありませんが、同じようなテイストを持つ用品の展開を考えています。そういうスタイリングアイテムや、荷物を載せやすくするものも、バリエーションを増やしてご提案します。

──クロスビーの海外展開は考えているのでしょうか? バリエーションの追加は?

高橋CE:海外展開は、まずは国内での反応を見ながら、検討していきたいと思います。バリエーション追加は今のところ考えていません。

 ですがモーターショーでは、今持っているクルマが4m未満のお客さまで、そのモデルが進化するにつれて大きくなってしまい、「このサイズが意外にないんだよ」と言われましたので、4mを切るサイズのクルマが期待されているのだと感じました。

 国内ではAセグメントの車種数は増えていないものの、当社でもイグニスやソリオがあり、ダイハツ・トヨタさんがタンク/トール/ルーミーを発売。Aセグメントのボリュームが増えていますので、そこにクロスビーを投入すれば注目されるのではないでしょうか。

──こういったコンパクトSUVであれば、ライバル不在の先進国では先駆者利益が得られ、また道路環境の悪いBRICsなど、とくにスズキが強いインドで大きなニーズが得られると思います。

高橋CE:モーターショーでは海外メディアの方も注目されていましたが、あとは実際に購入するユーザーの反応次第でしょうか。

──今後の展開を大いに期待しています。ありがとうございました。


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
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