この先日本でMT車が絶滅に向かう理由とは

事故ゼロのためにはすべての操作系をバイワイヤ化する必要がある

 今日本には、二輪やトラックメーカーを含めると、現時点で量産工場を持つ自動車メーカーは14社が存在している。まさに自動車大国といえる状況であり、モータリゼーションの進化においても世界のトップランナーといえる社会となっている。

 たとえばハイブリッドカー、今や世界中の自動車メーカーが量産するようになっているが、その先鞭をつけたのは日本の自動車社会だ。また、EVについてもじつは充電ステーションの数では世界トップレベルだったりするのだ。新しいものを積極的に受容する人を「アーリーアダプター」と呼ぶが、こと自動車社会の受容性においていえば、日本は世界のアーリーアダプターといえるほど、新しいものを受け入れる土壌がある。

 そして、自動車をモビリティ(移動手段)として考えれば、ドライバーによる差が生まれず、ドライバーがラクをでき、そして事故が少なくなることが大きなテーマとなる。また、排ガスなどの環境負荷が小さいことも現在のトレンドとしては存在感を増している。日産が「ゼロ・エミッション(排ガスなし)、ゼロ・フェイタリティ(交通事故死者なし)」という言葉で目指すべき自動車社会を表現しているが、そうしたマインドを強く持っており、理解が進みやすいのも、また日本の交通社会が持っている特徴といえるだろう。

 前置きが長くなったが、こうした大きな流れが、日本の自動車社会からマニュアルトランスミッション(MT)を減らしているといえる。ドライバーのスキル差を埋めるテクノロジーとしてオートマチックトランスミッション(AT)のニーズが拡大し、各種電子制御の集合体として自動運転技術が進化してきた(現時点では運転支援システムのレベルではあるが)。そして、自動運転においては、すべての操作系がバイワイヤ化することが前提条件であり、クラッチやシフト操作が必要なMTは相性が悪い。

 また、ストロングハイブリッドや電動車両など、モーターがダイレクトにタイヤを駆動するといえるパワートレインにおいては、そもそも多段変速機が不要というのも事実。EV走行の可能なストロングハイブリッドの比率が高まっている中で、MTの出番はどんどん減っている。

 こうして日本の自動車社会からMTへのニーズが少なくなり、メーカーのラインアップからも消滅の危機にある。今や、MTが残っているのは「MTでなければ運転できない」というごく一部のユーザー向けのラインアップと、スポーツ走行をターゲットとした趣味人向けの商品に限られているといっても過言ではない。

 もちろん、その背景にはAT限定免許という制度があることや、渋滞が多発するためクラッチ操作を避けたいという考えるドライバーが多いといった日本特有の事情も影響しているだろう。

 また、燃費にしろパフォーマンスにしろATのほうが優位という技術革新もある。ATと一言でいっても、ステップAT、CVT、DCT、AMTと様々で、それぞれに優位性があるのはご存じのとおり。スーパースポーツからもMTが消えつつある。

 なにより、前述した「ゼロ・エミッション、ゼロ・フェイタリティ」という目標に向かっていくには、MTというメカニズムは消え行く運命にある。自動車市場のアーリーアダプターである日本市場の動向は、おそらく時間をかけて世界に広がっていくことだろう。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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