福祉車両を当たり前に! ホンダN-BOXの「スロープ仕様」を「車いす仕様」と呼ばないこだわり (2/2ページ)

介助者の負担も減らしてあげたかった

さて、そんなN-BOXに新たに加わった「スロープ仕様」。まず気になったのは、そのネーミングだ。これまでなら「車いす仕様」と名付けるのが一般的ではないだろうか?

白土さんも「普通はそうでしょうね。でも私たちは、これからの社会は車いすで出かけるのは特別なことではなく、ごく当たり前の光景になるのではないか。いや、そうなるべきだと考えました。車いすを乗せるために、普段乗るときに何かをガマンしたり、使いにくい思いをするというのではなく、日常の買い物や送り迎え、仕事やレジャーにも便利に使えて、なおかつ車いすでの乗車も手軽にできる、そんなクルマにしたかったのです」。

実際に展示されていたスロープ仕様に乗ってみると、車いす用の装備が付いていても後席はしっかりと広さが確保されており、足もとに備わるウインチはよりコンパクトで設置される位置も以前より前になっているため、足が自然に伸ばせる。そしてラゲッジもスッキリとしていて、N-BOXの中でいちばん広くなっているとのこと。さらに驚いたのは、車いすを乗せるための準備が、わずか5工程で完了することだ。先代は11工程あったから、半分以下に短縮されている。

手順はまず後席のヘッドレストをたたみ、ストラップを引いて後席を倒してフラットに。車いすの車輪が収まる部分のフロアがワンタッチで外れて、前席のシートバックポケットに収まるようになっている。そしてスロープを引き出すのだが、これも先代より2.5kgも軽量化されており、片手で簡単にスルスルと伸ばせる。あとは手すりをクルリと回して固定すれば、あっという間に準備完了だ。

せっかくなので、車いすに乗っての昇降を体験してみた。もともとN-BOXが低床設計という利点もあり、スロープの傾斜が緩やかで、ひっくり返りそうな恐怖感がまったくない。ウインチの速さも乗り込む時は2段階に変えられて、とても安心感があることに感心した。介助役の白土さんも力を入れることなく、車いすの後ろで手を添えてくれる程度で安全に乗り降りができたのだった。

「車いすの方の安心・安全はもちろんなのですが、介助者の負担を軽くすることも大きな課題でした。準備が大変だと、車いすの方がそれに遠慮して、出かけたいと言い出しにくくなってしまうのです。このスロープ仕様なら、もっと気軽にたくさん出かけてもらえるようになると思っています」と白土さん。

確かに、これなら介助者が準備の工程を忘れて右往左往することもなさそうだし、大した力もいらないからとてもラク。車いすで乗り込んだ空間も見晴らしがよく、しっかりとした手すりで安定感があり、すぐ近くにドリンクホルダーもあって、お出かけが楽しくなりそうだ。

ここまでの改良を実現するのは、並大抵の苦労ではなかったはず。白土さんにいちばん大変だったところを尋ねると、「すべて大変でしたが、とくに手すりですね。これまでは、部品を組み立ててはめ込み、固定するためにも力が必要だったのですが、それを簡単にしようとすると、今度は強度がなかなか出ないのです。安心してつかまっていただけるだけの強度を確保しながら、どうやって簡単な取り付け方法にするか。試行錯誤の末にようやく完成しました」

そしてもうひとつ、白土さんがこだわったポイントがある。「スロープ仕様は福祉車両という括りではなく、立派なN-BOXの1タイプですから、カスタムデザインもありますし、ボディカラーもすべてのラインアップから選んでいただけます」。ステージの横に展示してあったスロープ仕様を指差して、「このピンクとホワイトルーフの2トーン、素敵でしょう?」と白土さん。こんなに、見ているだけでウキウキしてくるようなカラーなら、車いすでのお出かけもさらに増えそうだ。これまで、福祉車両というと選べるデザインやカラーが限られてしまいがちだったが、こんなところでも、スロープ仕様は多くの人を笑顔にしてくれるに違いない。

こうして白土さんのお話を伺ってきて、誰でもどんなシーンでも、安心・安全で楽しく便利に乗れること。暮らしの中にあると、みんなが幸せになれること。そんなクルマを目指したN-BOXだが、その中でもとくに、その想いがカタチになっているのが、このスロープ仕様なのかもしれないと感じたのだった。


まるも亜希子 MARUMO AKIKO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
MINIクロスオーバー/スズキ・ジムニー
趣味
サプライズ、読書、ホームパーティ、神社仏閣めぐり
好きな有名人
松田聖子、原田マハ、チョコレートプラネット

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