セダンはクルマの基本形ではない? ミニバンこそクルマの元祖である理由 (2/2ページ)

日本ではエスティマの登場がミニバン人気を決定づけた

 流れが変わったことを実感したのは、1990年に新しい乗用車の形として、ミニバンの初代エスティマが発売されたときだ。価格は300万円前後に達したが、憧れのクルマとなった。1991年にはバネットセレナ、1994年にはオデッセイ、1996年にはステップワゴン、イプサム、タウンエースノア/ライトエースノアが一斉に発売されて、ミニバンの売れ行きが一気に加速した。

 クルマが贅沢品で憧れの対象だった時代には、商用車とは異なるスマートなデザインのセダンが人気を得たが、1990年代には国産セダンも普及開始から約30年を経過していた。もはやクルマが憧れの対象ではなくなり、女性の運転免許保有者数も増えたため(1990年の女性の保有者数は1970年の4.8倍だ/男性は1.8倍)、日常的に便利に使える空間効率の優れたミニバンが好まれるようになった。

 このようにして1940年頃から1990年頃まで続いたセダンの時代が終わり、ミニバンが復権した。クルマが普及して生活のツールになれば、実用性が重視される。クルマの黎明期と同様、車内を広く確保できるミニバンスタイルへの回帰は当然の成り行きだった。

 このデザインの変遷を見事に表現しているのが、クライスラーPTクルーザーだ。クラシックカーがまさにミニバンであったことがわかる。

 ミニバンが復権した以上、もはやセダンが主流に戻ることはない。ただし悲観すべきことではないだろう。セダンは低重心で、後席とトランクスペースの間に隔壁があるからボディ剛性も高めやすい。実用性ではなく、優れた走行安定性と乗り心地、つまり安全と快適を高められることがセダン本来の価値だ。

 販売の主流から外れると、価格の割安感などはあまり問われないから、セダンは理想の安全と快適を追求できる。ミニバンの復権により、セダンは実用性という束縛から解き放たれ、ますます本領を発揮するようになるだろう。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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