需要の高いNAエンジンを進化させる! 新型スズキ・ハスラーに搭載されるパワーユニットのこだわりとは (1/2ページ)

出力は下がっても先代より扱いやすい特性を目指した

 2019年12月24日に2代目へと進化した、スズキの軽クロスローバーSUV「ハスラー」のNA(自然吸気)エンジン車には、新開発のR06D型エンジンが搭載されている。その技術的なポイントについて、スズキ四輪エンジン設計部 エンジン設計課の栗原春樹課長代理に聞いた。

──R06Dの出力特性は、R06AのNAエンジンに対しどのように変わったのでしょうか?

 栗原:低中速で落ちているところはありませんので、普段使いや郊外では不満を覚えるようなことはまずないと自負しています。残念ながら最高出力と最大トルクは落ちていますが、大幅に改良されたCVTとの組み合わせで、お客さまにご満足いただける動力性能を確保できていると考えています。ですが出力性能が落ちた分、燃費性能は良くなっていますね。

──ボア×ストロークは従来のR06A型より変更されているのでしょうか?

 栗原:はい、ストロークを伸ばしています。R06Aが64.0×68.2mmなのに対し、R06Dは61.5×73.8mmになっています。

──ロングストローク化は熱効率にも実用燃費にも有利だからでしょうか?

 栗原:はい。

──ホンダさんも二代目N-BOXでエンジンをS07A型からS07B型に刷新しましたが、スズキさんがR06Aをリリースしたのは……。

 栗原:2011年1月ですね。R06Aは現行アルトを発売した2014年12月と、現行ワゴンRを発売した2017年2月の二回、マイナーチェンジしていますが、これでエンジン刷新という意味では三回目ですね。今回はボア×ストローク比も変更しましたので、もっとも大きく踏み込んだ改良になっています。ホンダさんもダイハツさんも、日産・三菱さんも、軽自動車用のパワートレインを非常に頑張っていらっしゃるので、われわれとしても踏み込まざるを得ないという状況でしたね。

──R06Dのボア×ストローク比の数値は、これがストロークを延長する限界だったということでしょうか?

 栗原:本当の限界がこれかというと、なかなか言いにくい部分があるのですが、少なくともボア×ストローク比を決めるにあたっては、エイヤで決めたわけではなく、シミュレーションを含めて何種類か試しています。今回の最大の目的は燃費になりますが、出力性能も無視できませんので、そのバランスを見ながら決めました。

──それだけボアが小さくなると、バルブ面積の確保が大変になりそうですが。

 栗原:そうですね。バルブ面積は小さくなっていますが、ポートの形状を含めて充填効率を確保できるように見直しています。

──ボアが小さいということは燃焼室の面積が抑えられて、冷却損失も減らせるということでしょうか?

 栗原:ボアを小さくして圧縮比を上げる際、SV比(燃焼室の表面積と容積の比率)が非常に難しくて、形状にも制約が出てきます。ピストンの冠形状を含めた燃焼室形状というのは、エンジンの一番肝になりますので、正直「どこに正解があるのだろうか?」といつも考えながら設計していますね。

──軽自動車用エンジンではR06Dが、もっともストロークが長いのでしょうか?

 栗原:いえ、ホンダさんのS07Bの方が長いです(60.0×77.6mm)。ホンダさんのエンジンはスリムで背が高いのですが、それを思い切ってやってきているので、見ていて気持ちいいくらいですね。われわれは生産設備やさまざまな車両への搭載性のことも含めて、このような形になっています。背の低いクルマにも搭載するのに、レイアウトを変更してもいいのかというと、そうはいきませんので。

──図にあるように吸気を真っ直ぐ入れられるようになったのは、ポート角の変更がもっとも大きいのでしょうか?

 栗原:そうですね。この矢印の先で空気をジャンプさせ、強いタンブルを付けています。R06Aは極端なエッジがなく、下側でリバースタンブルと呼ばれるものが若干発生してしまっているのですが、こちらの方が吸気の総量は大きくなるんですね。タンブルと吸気量は二律背反の関係にあるので、どこでバランスを取るかが難しいんです。とにかく球速燃焼のためにタンブルを強めようというのを、現実的な範囲の中で極めたということですね。


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
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