モデルチェンジで「正面」に戻すクルマも! クルマの「センターメーター」が普及しないワケ

情報共有や上下の視線の移動量が少なくなるメリットがある

 クルマのメーターは、大きく分けて、運転席側にある一般的なメーターと、インパネセンターにあるセンターメーターがあり、一般的なメーターも、ステアリングを通して見えるインホイールと、ステアリングの上から見るアウトホイールタイプがある。

 センターメーターというと、初代から今に至るプリウスなどでおなじみだが、じつは、1950年年代に登場したBMCミニから採用されてきたタイプなのであり、ルノー4CVやヒルマンミンクスの例もあり、決して特異なレイアウトではない。トヨタ・プリウス以降も、ヴィッツやbB、エスティマから、最近では軽自動車のダイハツ・ウェイク、タント(3代目まで)、など採用例は思ったより多いのである。

 しかしここ最近、センターメーター装着車が減ってきている傾向にあるのも事実。そう、モデルチェンジでセンターメーターから普通の位置のメーターに戻したクルマも少なくない。一例が日産エクストレイルで、センターメーターは初代のみ。タントも最新モデルでは、センター風ではあるものの、より運転席側に移動しているのである。

 そもそもプリウスは、世界初の量産ハイブリッドカーという新しさをアピールするひとつの手段として、センターメーターを採用したはずである。そしてドライバーとパッセンジャーがメーター内に表示される情報を共有しやすく、また上下の視線の移動量が少なくなるメリットもあったはず。さらにメーカー側の都合としても、右ハンドルと左ハンドルの仕様でパーツを共有しやすいコストダウンにつながるメリットも見いだせるというわけだ。

 極めて個人的な意見としては、ミニバンや容量系軽自動車にあるステアリング奥の蓋付収納の実用的なメリットについは、大賛成である。

 一方、デメリットとしては、速度表示などを見るための横方向の視線移動量が大きめになることや、ステアリング前のスッキリ感(視界もいい)と引き換えに、多くの場合、夜、目の前が手もとまで真っ暗になり、寂しく!? 不安に感じられる点も(メーターの光源がなくなるため)あるはず。タントが完全なセンターメーターから、現行型でドライバー寄りに移動させたのは、「もっと見やすくしてほしい」という顧客の声に応えたからにほかならない。

 もちろん、センターメーターはメーター情報が大切なスポーツカーなどに不向きなのは当然であり、スポーツカーに決して受け入れられないメーター位置でもあるのである。とはいえ、ファミリーカー、実用車では、運転に必要な情報はスピードメーターぐらいで、センターメーターでも、速度表示はフロントウインドウに映し出されるヘッドアップディスプレイでこと足りるという意見もあるかもしれない。

 一般的なメーターとセンターメーターの折衷案!? としてあるのが、インパネ上部にレイアウトされた、薄型デジタルメーターだ。ホンダ・ステップワゴン、フリード、トヨタ・シエンタ、日産セレナなどのミニバン系の採用例が多い、ステアリングホイールの上越しに見るタイプ。ドライバーの運転視界にメーターがほぼ入り、視線移動が極めて少なくて済むメリット大。

 ステアリング奥に収納を設けられる便利さとも両立でき、クルマの機械感を極力排除したい、非スポーツ系のクルマには、うってつけのメーターデザインと言えるかもしれない。ただ、それも好み。ステアリングを通してメーターを見る、オーソドックスなインホイールタイプのメーターを好むドライバーが圧倒的であることは想像に難くなく、センターメーターのクルマがミニバン系を除いて減ってきているのも、頷けるというものだ。

 しかしながら、上には上があるもので、電気自動車のテスラ・モデル3は、インパネそのものにメーターなし。というか、何もない。ステアリングがあるだけだ。そしてインパネ中央にタブレットのようなディスプレーが添えられているのみだ。旧来価値とは別物の、究極にシンプルな、未来のクルマそのものの世界を醸し出している。もっとも、これもセンターメーターの一種!? と言えるかもしれないが……。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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