いまのクルマには「慣らし」が「必要」か「不要」か? レーシングドライバーの答えとは (2/2ページ)

ポルシェには取説に慣らしの記載があった

 僕が所有していた1993年製のポルシェ911ターボの取り扱い説明書には「慣らし運転」に関して記載があった。

「少なくとも最初の1000kmを走行するまではエンジン回転数を5000回転以下にするとエンジンの寿命や性能に良い影響を与える」と書かれている。

 またブレーキに関しても「最初の200kmは利きが甘く、大きな踏力が必要です」とある。しかし、エンジン性能曲線図を見るとエンジンが5000回転だと1速では50km/h、2速では90km/h以上、3速だと130km/hに達してしまう。つまり、一般道を普通に走行するなら暖気だけ気をつければ特別な「慣らし運転」は必要ないことになるわけだ。

 ポルシェは新車時から寿命が尽きるまでつねに最高性能を引き出せるクルマであり続けることを使命としていて、取説にもこのような記載があるのだといえる。速度無制限区域のあるアウトバーンが主戦場のポルシェならではの取説なのだ。ポルシェに限らず、長期間に及ぶ使用を目的とする工業製品ならば必ず慣らしを行う必要があり、その方法はメーカーが示しているものだ。

 では近年の国産車はどうなのだろうか。最新の自動車生産技術は驚くほど精度が高まっていてピストンやシリンダー、ベアリングなどの完成度や組み込み精度も高い。機械加工のバリなどもなく、特別な慣らし運転を必要としていない。一般道を普通に走行していれば必要にして十分な性能の維持が可能となっている。ブレーキも一般道の通常走行をするなら、何の気配りも必要ない。普通に走り、普通に減速すればそれで十分といえる。

 ただ、新車をサーキットで走らせようとするなら話は別だ。市販車は一般道の走行を前提に設計されているから、サーキットでの全開走行のような高負荷での使用を前提としていない。ベアリングやピストンとシリンダーの組み合わせ、隙間など、熱膨張の程度も通常走行で最高のバランスとなる。サーキットを走るならエンジンやトランスミッションオイル、ブレーキフルードのグレードを変更して入れ直さなければならないし、200km/h以上出せる高性能車ならタイヤに関してもより順序よく慣らししていかなければならない。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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海外巡り
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