いまのクルマには「慣らし」が「必要」か「不要」か? レーシングドライバーの答えとは (1/2ページ)

摺動部をスムースに動くようにするなどの意味がある

 昭和の時代、新車を購入するとまず慣らし運転を行うのが慣例だった。たとえばエンジンの暖気を十分に行い、走り出してからも回転数は3000回転以下に抑える。トランスミッションの操作はゆっくり行い、速度も抑えて走るなど。そんな慣らし走行を少なくとも5000kmは行うと良いといわれていた。オイル交換も最初は1000kmごとに。その際にはオイルフィルターも交換するのが理想とされていたのだ。しかし、僕が受けた武蔵工業大学機械工学部内燃機関工学の授業では、自動車エンジンの権威である故・古浜庄一教授から「必要なのはオイルの量が十分かどうかで、新しいか古いかは大きな問題ではない」と教わった。つまり交換しなくても、量を管理して減ったら継ぎ足せばいいのだと。

 その後、レース界に身を置くと、レースエンジンの慣らし走行というのは行われなかった。その代わりにブレーキの焼き入れ、トランスミッションやデフの慣らし、タイヤの皮むきといった作業が求められた。レースエンジンの場合、すでにエンジンベンチテストで十分な慣らし運転が行われていて、実走行での慣らしは不要だったわけだ。ブレーキはディスクとパッドの両方を焼き入れし、即レースに使えるよう準備しておく必要があるため、レースウィークでは練習走行のはじめに数セットのブレーキ慣らしをしながらマシンとコースのコンディション確認を行ったものだ。

 そもそも「慣らし」にはどんな意味があるのだろうか。エンジンでいえばベアリングやピストンなど摺動部がスムースに動くようにし、細かな加工バリや組み込みのアンバランスなどを修正する意味もある。これを行わずにいきなり高負荷・高回転でエンジンを回すとベアリングやピストン、シリンダーなどに傷が付き、後々焼きつきを起こしてしまったり、パワーダウンの原因になったりする。また長期間に及ぶ車両保有期間で最高性能を維持していたいという思いも込められていただろう。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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海外巡り
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クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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