いまや軽自動車にまで使われる当たり前技術! 「はるか昔」のレーシングカーが発祥だった (1/2ページ)

100年以上の歴史をもつレースメカニズムが受け継がれてきた

 現在は、ごく当たり前、常識的と思われているいくつかの自動車メカニズムは、元を正せば限界性能を追求する性能本位のレースから派生した高性能メカニズムだったことをご存じだろうか。今回は、こうしたレースルーツの「当たり前」高性能メカニズムを振り返ってみたい。

1)4バルブDOHC

 今後はEVが主流、化石燃料使用のクルマは手控えることが見越される環境で、高効率(つまりは高性能)の土台として考えられている内燃機関が4バルブDOHC方式だ。DOHC、すなわちダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフトの略で、4サイクル機関の動弁構造を表す名称である。

 DOHC方式の特徴は、吸排気バルブを開閉するカムシャフトが直接バルブと接し(直打方式の場合)、動弁系の質量が小さいことから、作動が正確でエンジンを高回転で使う(=出力を稼げる)ことができる点にあり、レース用として誕生している。歴史的に遡ると非常に歴史の長いメカニズムで、その第1号は1912年のフランスGPに参戦したプジョーのグランプリカーL76だった。

 このエンジンがいかに高効率だったかは、当時のライバル車との排気量を見比べるとよく分かる。第1回グランプリ(1906年)優勝のルノーは12.8リッター、第2回グランプリ(1907年)優勝のフィアットは15リッター、第3回グランプリ(1908年)優勝のメルセデスは13リッターと、とてつもない大排気量であったことに対し、プジョーのDOHCエンジンは7.6リッターとフィアットの半分の排気量で同等以上の出力を確保していたのだ。

 内燃機関の動弁形式は、SV(サイド・バルブ)、OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)、SOHC(シングル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)と発展したが、単に動弁系の質量だけの問題ではなく、バルブ配置による燃焼室デザインの変化(自由度)も重要な要素だった。ターンフロー方式のバスタブ型、ウエッジ型からクロスフロー方式の半球型へ、さらに吸気、排気の容量が大きなマルチバルブ方式(吸気1/排気1の2バルブ方式→吸気2/排気2の4バルブ方式)によるペントルーフ型へと燃焼効率の向上が図られてきた足跡がある。

 こうした意味では、近代量産4バルブDOHCの先駆者に位置付けられるエンジンが、なんと日本車、日産スカイラインGT-R(1969年、PGC10型)に搭載されたS20型だった。ベースはグループ6プロトタイプカーR380(Ⅰ型、1965年)用に開発されたGR8型エンジンで、これを元に量産車用として設計し直されたエンジンがS20型だった。

 世界レベルで見れば、DOHC方式によるペントルーフ型燃焼室+4バルブ+高圧縮比の組み合わせをレース用として成功、定着させたのは英コスワース社で、1966年のF2用1.6リッターFVA、1967年のF1用3リッターDFVの存在はあまりに有名である。

 S20型は排出ガス対策の影響などで短命に終わったが、その後4バルブDOHCを再び市販車に搭載したのも日産だった。1981年デビューのスカイラインRS(DR30型)で2リッター4気筒のFJ20型を開発。もっとも、生産車とはいえスカイラインRSはまだプレミアムな車両だったが、4バルブDOHCを日常の高性能エンジンにまで敷居を下げたのがトヨタAE86レビン/トレノに搭載された1.6リッターの4A-G型だった。そしてこの4A-G型の登場は、各社に4バルブDOHCエンジンを開発させる起爆剤となっていた。

  


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