既存自動車メーカーの「電気自動車」じゃダメ? 世間が「SONY」や「アップル」のEVに期待を寄せるワケ (2/2ページ)

クルマがもたらす生活ではなく生活にクルマを組み込む期待

 トヨタは、クルマをつくる会社からモビリティカンパニーへ移行するとした。社内的には大革命だろうが、社会的にはまだ移動手段に関わる企業であることから脱却できていない。

 ソニーは、ゲームやオーディオ、あるいはパーソナルコンピューターなど、これまでの製品を利用した消費者から、その機能や面白さに対する期待は高く、それは暮らしのなかの出来事に喜びをもたらす製品への期待でもある。アップルのスマートフォンは、いまや電話や通信としての機能だけでなく、家電製品の管理や、金銭授受などにも能力を発揮し、まさに暮らしを組み立てる端末となっている。

 つまり消費者は、暮らしのなかでの楽しさや安心、あるいは利便性を求めており、その延長として個人の移動についてもゲームやスマートフォンなどと同じ感覚の性能や品質を選びたいと思っているのである。

 いくら時速200kmで走れるクルマだといっても、現実の使い道はない。運転が楽しいといっても、疲れているときには自動運転してもらいたいと思う。クルマが好きでも、車庫入れが不安で躊躇する気持ちの人もいるだろう。いつでも、だれにでも、楽に移動させてくれるクルマは安心かつ身近なはずだ。インターネットで入手したり、利用できたりすれば、日々の暮らし方とも通じる。

 そのように、クルマの基本性能は大切ではあるが、クルマとしての利便性だけでなく、暮らしと結びついた快適な手段という発想の商品でなければ、いくら技術に優れても、関心は薄れ、選択肢に入らないということだ。

 また世界的に都市化が進んでいるので、郊外の道で運転を楽しめる機会も減っていくだろう。日々窮屈な思いのする都会で、他人に煩わされず移動できるクルマとして、ソニーやアップルに対する期待が重なっていくのだと思う。

 米国のテスラは、EVであることを最大に活かした新車を提供することで、より暮らしに近い装備や機能を率先して創造したことが、今日の地位をもたらしている。クルマ発ではなく、暮らし発の発想や着想のできる企業のクルマを、消費者は求めているのだ。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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