ターボにディスクブレーキにDCT! クルマの最先端技術は「航空機」や「レース」からのお下がりが多かった! (3/3ページ)

レースシーンで磨かれた技術の代表格はDOHCとDCTだ

 航空機ではなく、レーシングカーからの応用メカニズムとして画期的な内容を持っているのがDOHC方式とツインクラッチトランスミッション(DCT)だ。DOHCはレースの発展とともに考案されたメカニズムで、高出力を得るにはどうすればよいか、というのがその原点だった。

 1890年代に始まったモーターレーシングは、ライバルに対する絶対的な優位を得るため、エンジン排気量の引き上げによる高出力化が絶え間なく繰り返されてきた。世界初のグランプリは1906年のフランスGPだったが、このとき優勝したルノーのエンジン排気量は12.8リッター、翌1907年の優勝車となったフィアットは15リッターというとほうもない大きさだった。もっとも、当時はそれがふつうの大きさという認識だったが、1912年、5年ぶりに開催されたフランスGPで優勝したプジョーのエンジンは7.6リッターだった。それまでの約半分の排気量で優勝できた理由は、高回転高出力を可能にしたDOHC方式を採用したことにあった。

 市販車への応用は、1960年代からスポーツモデルで意識的に使われるようになり、1980年代に入って高効率化が求められる時代になると、普及価格帯の乗用車にもDOHC方式が採用されるようになっていた。DOHC方式は、高回転高出力化に向くだけでなく、理想的な燃焼室形状の採用が可能なことから燃焼効率の向上が可能で、省燃費、排ガスの浄化にとっても有効な方式と受け止められるようになっていた。

 トランスミッションの変速ギヤを奇数段と偶数段に分けて2本のシャフトに配置、それぞれの先端に入力断続用のクラッチを設け、ドライバーの操作によって瞬時にギアが切り替わるDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)は、現在では高性能スポーツカーの標準システムと考えられているが、このDCTもルーツをたどるとレーシングカーに行き当たる。1987年にポルシェAGがグループCカー962でトライしたPDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング)がその発端である。

 シフトレバーとクラッチペダルを操作する通常のMT方式より、シフト信号によって機械的にギヤを切り替えるPDKは、変速に要する時間が半分以下(0.2秒前後)ですみ、クラッチ断続による空走時間が短くなることから、レーシングカーを速く走らせるにきわめて有効なシステムと理解されていたが、システム重量が通常のMTより100kgほど重くなることから、レーシンクガーでの継続採用はいったん見送られるいきさつがあった。

 しかし、しばらくの開発期間を経ることで、システムの軽量コンパクト化が可能となり、2003年にVW/アウディの共同開発によるDSG(ダイレクト・シフト・ギアボックス)がゴルフ(R32)に搭載された例が市販化の第1号となっている。

 現在では、市販車で何の違和感もなく採用されるシステムの数々だが、その歴史を振り返ると必要に迫られ誕生、実用化したものが多く、そのルーツが量産車ではなく、より高い技術水準が求められるレーシングカー、あるいは航空機だったことがおわかりいただけただろうか。


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