EV製造に必須の「リチウム」が足りないは早計! そもそも不必要な台数のクルマが存在している可能性を考えるべき (2/2ページ)

EVにすればすべてが解決するという考えは早計だ

 いま、世界に13億台の自動車が保有されていると伝えられる。そのすべてをEVにすれば課題は解決するのかという疑問もある。

 なぜなら、国際連合は人口予測のなかで2030年に世界の60%が都市部に住むようになるという。すでにその比率は55%に達している。世界的にも人口密度の高い東京を例にすれば、クルマを所有することが難しくなっている。なおかつ日本の所得は過去20年間伸びておらず、限られた収入のなかでいかに快適に暮らすかが東京に住む人の購買動向と結びつく。そして広がったのが、カーシェアリングだ。

 クルマは、90%以上は駐車場などに停車したままで、移動のために使われるのは10%以下でしかない。じつに効率の悪い乗り物だ。それにもかかわらず、車両購入価格はもちろん、損害保険、税金、そして駐車場の賃貸費用、燃料代を支払い続けるのは、限られた収入のなかで負担になる。ならば、必要なとき、必要な車種を、必要な時間だけ借りるほうが無駄な出費を抑えられ、クルマを使う目的は満たされる。

 そうした暮らしぶりが、この先は都市化が進む世界で広がるだろう。すると、世界の自動車保有台数が減っていくかもしれない。そこまでを予測し読み込んだうえで、リチウム資源の採取と供給を考えるのが企業である。

 いまの価値観のままリチウム資源が足りなくて大変だとか、それによってEVはそれほど普及しないのではないかなどと考えるのは、将来を見誤る恐れがある。ポルシェが「買ってもらうブランドから選んでもらえるブランド」へとブランド戦略を移行させた背景には、上記のような深謀遠慮もあるのではないか。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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