エンジンという熱源がないから暖房すると電費がキツイEV! そもそもヒーターの温風を生み出す「2つの方法」とは

この記事をまとめると

■電気自動車にはエンジンのような高温の熱源がない

■では暖房の温風はどのように作り出すのだろうか

■EVの暖房の仕組みにはいくつか種類がある

エンジン車とは仕組みが異なる

 電気自動車には、エンジンのような高温の熱源がないので、暖房には水を電熱で温め、湯を循環して送風し、車内の空気を温める。これを、PTC(正温度計数:Positive Temperature Coefficient)ヒーターと呼ぶ。電気で湯を沸かすのは効率が悪いと思われがちだが、電気ポットのようなもので、エンジンが温まるのを待つより早く温度が上がるとされる。

 ほかに、ヒートポンプも使われる。住まいの暖房は、やはりエンジンのような熱源がないので、空気中に含まれる熱を活用している。これがヒートポンプだ。冬場のように気温が下がったとき、その空気に熱はあるのかと思いがちだが、それでも温度が計れるということは、他の季節に比べれば少ないとしても、熱そのものは存在することを意味している。この熱を、冷媒で獲り込み、圧縮すると、温度が高くなる。逆に膨張させると温度が下がる。これを使って車内の空気を温めるのだ。車内が冷えている当初は、5kW(キロ・ワット)ほど電力を消費するようだが、一旦室内が暖まれば、それを保つ運転では2~3kW程度に落ち着くという。

 それでも、たとえば日産サクラの場合は車載バッテリー容量が20kWhなので、電力消費の影響は小さくない。

 ほかに、トヨタbZ4XやBMWのiXで採用されたのが、輻射熱を使う暖房だ。薄い膜に電気を通すと発熱する素材を用い、乗員の体を直接温める。シートヒーターやハンドルヒーターのように、直接触れることはないが、bZ4Xではハンドルコラムやダッシュボードの下側、iXではそれに加え、ドア内側とセンターコンソール側面にも設定されており、あたかも炬燵に入るようなぬくもりを感じられる。

 シートヒーターなどを含め、車内全体の空気を暖房するわけではないので、必要な乗員にのみ温かさを提供する装備によって、消費電力を抑えられる。また、シートヒーターやハンドルヒーターは、空調に比べ10分の1の消費電力で済むといわれる。移動中に使用し続けても、リチウムイオンバッテリーに充電された電力への影響は少なくて済む。

 それでも、走り出してからの暖房用電力消費をできるだけ抑えたいときは、まだ充電している間に暖房を起動しておくと、出発前に車内を快適に温めておくことができる。スマートフォンで操作でき、出発の15~20分前に起動すれば、ちょうどいい室内温度になっているだろう。

 そして車内が温まった状態で空調は止め、シートヒーターやハンドルヒーターを利用すれば、寒さを感じずに済むかもしれない。もちろん、降雪地域のような極寒の地域は別だろう。だが、非降雪地域であればこの移動の仕方で余計な電力消費を抑えることができる。航続距離への不安も少なくなるはずだ。

 エンジン車でも、あらかじめエンジンを始動して車内を温めることはできなくないが、その間、排出ガスを出し続けることになる。

 エンジン車の経験だけでEVを見ると、充電を含め、不便や不安を覚えそうになるかもしれない。しかし、最適な使い方が変わるだけであって、要点を知れば、不安なく快適にEVを使えるようになる。そのためにも、シートヒーターや、輻射ヒーターなど、空調に比べ消費電力の少ない装備の有無や、注文装備での選択肢があるかなどは、EV購入や、EVを借りて出掛ける際の注目点になる。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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